病院を支える栄養科

済生会吹田病院

中央技術部

大阪府吹田市川園町

すべての人に寄り添える栄養科であるために

すべての人にとって、食事は楽しみであり生きる喜びでもあります。病気やけが、アレルギー、高齢化などでいつもの食事が食べられなくなったとき、本人はもとより、家族や介護される方すべてが思い悩まれることと思います。当院栄養科は管理栄養士が18人在籍し、入院・外来・健診・在宅というすべての分野で栄養指導・相談を行っています。

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図1 管理栄養士

入院される患者さんは、年齢・性別・症状などさまざまです。一人ひとりの病態に合わせた食事を提供するため、200種類以上もの食種があります。2011年より各病棟に管理栄養士1人を配置し、ベッドサイドで食事の調整や栄養相談を行い、入院から退院まで治療をサポートしています。外来では普段の食生活を聞き取り、食事療法の目的や取り組み方を説明して生活に取り入れやすい方法を一緒に考えながら、病気の悪化防止や改善をめざしています。

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図2 入院食

健康管理センターでは健康診断で「要観察」と判定された方に、健康寿命の延伸に向けて半年間、電話やメールで支援を行っています。さらに2016年より、通院が困難な方を対象に本人や家族の思いを大切にしながら、自宅で食事・栄養面から生活をサポートできるよう、訪問栄養食事指導を開始しました。

急性期~在宅まで。めざすは切れ目ない栄養サポート

病気やけがで治療が必要となったとき、すべての治療の基盤となるのが「栄養管理」です。栄養状態が悪いと、重症化しやすく治癒が遅れることもあります。前項の通り、当院では各病棟に担当の管理栄養士が配置され、全入院患者さんに対し栄養評価を行います。栄養状態が悪い、または今後悪くなることが予測される患者さんについては、栄養サポートチーム(NST)に応援を要請します。当院の場合NSTは、医師と歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床検査技師、歯科衛生士、管理栄養士からなるチームで、週に2回カンファレンス・回診を行っています。多職種がそれぞれの専門的視点から栄養状態を維持・改善する意見を出し合い、主治医や担当看護師に提案を行います。

NSTによる栄養サポートの一例を挙げます。最近よく聞く「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」は、免疫力が落ちている状態で食べ物や唾液が誤って気管に入った場合に発症します。NSTでは、再び食事ができるように、患者さんが望む場所で生活できるように、栄養状態や嚥下(えんげ)機能を評価し、その方に合った食事形態への調整や口腔(こうくう)ケア、リハビリテーションを提案します。食事(経口摂取)だけでは栄養が不充分な場合は、一時的に輸液で補うこともあります。残念ながら摂食嚥下機能の低下で経口摂取の再開が叶わない場合は、本人や家族の意向も踏まえ、経口摂取以外で栄養を確保する方法を相談します。

近年問題になっているのがサルコペニア(筋減弱症)です。特に入院中に病気やけがで身体がダメージを受けているときに、必要以上に安静・絶食することで、骨格筋量が減少し、歩いたり食べたりすることが難しくなった状態を医原性サルコペニアといい、これを食い止めることもNSTの課題です。

病院の機能分化が進み、当院のような急性期病院の入院期間が短くなったことで栄養状態が改善しきらないまま退院となる症例や、高齢化に伴う摂食嚥下障害患者の増加により誤嚥性肺炎で繰り返し入院となる症例を数多く経験し、急性期病院の管理栄養士として地域における栄養サポートの必要性を感じてきました。全国的に急性期病院の管理栄養士による訪問栄養食事指導の実施率は0.9%に留まっており、手探りでのスタートとなりましたが、NSTで介入した患者さんに対し在宅介入のスクリーニング(ふるい分け)を行うことで、退院後も切れ目のない栄養管理・指導が行えるようになりました。また入院を機に嚥下調整食が必要となった方も、在宅でより実践的な調理指導が可能となり喜ばれています。地域の診療所やクリニックの先生方からの依頼も受けており、ケアマネージャーを始めとする地域の介護・医療従事者を介して、依頼件数は増加しています。在宅療養されている方の中にも増えているのがサルコペニアです。親指と人差し指の輪っかを自身のふくらはぎの一番太い部分に当ててみましょう(図3、4)。隙間がある方は要注意、骨格筋量の減少が疑われます。若いうちから、若くなくても、「貯金」だけでなく「貯筋」に努めましょう。

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図3 筋力量を調べています
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図4 指輪っかテスト(出典:東京大学 高齢社会総合研究機構 飯島勝矢教授)

更新:2022.03.08