大動脈瘤という名のサイレントキラー
釧路孝仁会記念病院
心臓血管外科
北海道釧路市愛国
大動脈瘤とは
心臓から全身へ血液を送る太い血管を大動脈といいます。この大動脈が動脈硬化などの原因で拡張し、瘤(こぶ)になる疾患を大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)といいます。風船と同じように、ある程度の大きさを超えると破裂する危険が高くなります。破裂した場合は死亡する可能性が高く、救命困難です。
破裂するまでほとんど症状がない怖い病気です
大動脈瘤は、胸部、胸腹部(胸とお腹(なか)の間)、腹部など、どの部位で発生するかで分類します。
症状としては、胸部大動脈瘤では声がかすれる(嗄声(させい)、声帯の神経が瘤で圧迫されるため)、腹部大動脈瘤ではお腹がドクドクする(拍動性腫瘤(はくどうせいしゅりゅう))などが現れることがありますが、破裂するまで症状がない方が多いです。しかし、一度破裂すると胸痛や腹痛が現れ、ショック状態になり、早急な対応を取らないと出血死してしまいます。
このように、ほとんど症状がないことから、大動脈瘤はサイレントキラー(静かなる殺し屋)とも呼ばれています。
検査と診断
未破裂の大動脈瘤はほとんど症状がないため、偶然見つかることが多いです。まれですが、胸部大動脈瘤は、胸部X-p(いわゆるレントゲン)で異常な影として見つかることがあります。たいていは、ほかの疾患の検査のために撮影したCT検査で偶然発見されます。診断と治療方針の決定には、造影剤を使用したCTが非常に有用です。
治療適応(胸部径5.5~6.0cm、腹部径4.5~5.0cm)の大動脈瘤であれば、さらに心臓や脳の血管の検査を超音波やMRIを用いて施行します。
大動脈瘤に対する治療
大動脈瘤に関しては、残念ながら破裂を防止するような内服薬は存在しません。そのため、瘤の径が大きくなって破裂の危険が高まった場合は、手術が必要になります。
手術方法としては、大きく2つに分けられます。1つは、胸やお腹を開けて(開胸や開腹)直接瘤となっている大動脈を人工血管と取り換える(人工血管置換(じんこうけっかんちかん))手術です。もう1つは、足の付け根(鼠径部(そけいぶ))の動脈からカテーテル(医療用の細い管)を用いて瘤のある部位へ、バネ付き人工血管(ステントグラフト)を留置することで破裂を予防する手術(ステントグラフト内挿術(ないそうじゅつ)、図1)があります。

それぞれに、長所と短所があります。人工血管置換術は開胸や開腹が必要となり、体への負担が大きくなる短所がありますが、一旦、人工血管を置き換えると、かなり長期の耐用性を備えているため、術後の心配がないのが長所です。
一方、ステントグラフト治療は鼠径部を小さく切開するだけですむため、患者さんの体の負担が軽いという非常に有用な長所がありますが、瘤の形によっては治療できない場合もあるのが短所といえます。
実際は、患者さんの全身状態や瘤の形などで、どちらの治療を選択するか決定しています。
釧根地区での大動脈瘤治療の現況
釧根地区では、患者さんの高齢化が進行していため、前述の手術において手術リスクが高くなる傾向があります。そのため、より低侵襲(ていしんしゅう)(※1)なステントグラフト治療が選択される場合が多いです(図2)。
※1 低侵襲:体に負担の少ない

当院では、年間50件程度のステントグラフト治療を施行しています。釧根地区で唯一のハイブリッド手術室(カテーテル検査装置を兼ね備えた手術室、写真)があり、ステントグラフト治療が緊急の場合も含めて、いつでも対応可能です(2023年12月現在)。

更新:2024.05.23