去勢抵抗性前立腺がん、骨転移:去勢抵抗性前立腺がんに対するラジウム-223内用療法

釧路孝仁会記念病院

北海道釧路市愛国

去勢抵抗性前立腺がんの骨転移

去勢抵抗性前立腺がんは高頻度(こうひんど)で骨転移が起こります。ラジウム-223(放射性物質を含んだ薬)は注射で体内に送られると、代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く運ばれ、そこから放出されるアルファ線が骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます。

症状と原因

前立腺がんは進行すると骨に転移しやすい

男性ホルモンの分泌を抑える治療(手術療法やホルモン療法)を実施しても、病状が悪化する前立腺がんのことを「去勢抵抗性前立腺がん」といいます。去勢抵抗性前立腺がんでは、およそ80%の高い頻度で骨転移が起こることが知られています。

骨にがん細胞が転移しても、初期では症状がほとんどないため、すぐに気づかれることはありません。しかし、病気が進行するとがん細胞が骨の中の神経を刺激したり、脊髄(せきずい)など周囲の組織を圧迫したりすることで、痛みやしびれ、麻痺(まひ)などが起こりやすくなります。

また、転移した場所の骨がもろくなるため、少しの力がかかるだけで骨折しやすくなります(病的骨折)。さらに、骨のカルシウムが血液に流れ出す「高カルシウム血症」が起こると、食欲不振、吐き気、倦怠感(けんたいかん)、多尿、意識障害などの症状がみられることがあります。

骨転移に伴うこうした症状は、患者さんの生活の質を大きく低下させる原因になるばかりでなく、生存期間にも影響を及ぼすリスク要因となります。このため、できるだけ早い段階から適切な治療を始めて、病気の進行や症状を抑えることが大切です。

検査・診断

前立腺がんの骨転移は画像、血液・尿検査で診断する

前立腺がんの骨転移の有無や広がりの程度は、CTやMRI、骨シンチグラフィ(骨シンチ)などの画像検査で確認します(表)。骨シンチでは全身の骨を一度に検査することができます。血液・尿検査では、PSAなどの腫瘍(しゅよう)マーカーや骨代謝マーカーを測定します。

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表 画像検査の種類

予防と治療

早期治療が大切

当院では、去勢抵抗性前立腺がんの骨転移に対するラジウム-223による内用療法を行っています。

ラジウム-223には骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質があり、注射で体内に送られると、代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く運ばれ、そこから放出されるアルファ線が骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます(図)。アルファ線はエネルギーが高く、細胞を破壊する力が強いという特徴があります。しかし、アルファ線の力が届く距離は0.1mm未満(体内)と短いことから、正常細胞に影響を及ぼすことは比較的少ないとされています。

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図 ラジウム-223の働き

ラジウム-223を注射する前に、ほかの内臓に転移がないことや骨髄抑制(こつずいよくせい)の有無などを確認します。骨髄抑制とは、白血球や赤血球、血小板などを作っている骨髄の機能が低下して、これらの血液細胞が減少することをいいます。

ラジウム-223の投与は4週間ごとに1回、静脈注射で投与します。最大6回の注射を受けたら治療は終了です。注意が必要な副作用に骨髄抑制があります。その他の副作用(発生頻度5%以上)として、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、下痢(げり)、食欲減退、骨の痛み、疲労などがあります。

これまでの骨転移に対する治療は、症状の出現を遅らせたり、症状を和らげることが中心でしたが、最近は去勢抵抗性前立腺がんに対する新しい治療薬が登場したことで、症状の緩和に加え、生存期間の延長もめざせるようになりました。

更新:2025.02.06