良性脳腫瘍:脳腫瘍に対する鍵穴手術

札幌孝仁会記念病院

脳神経外科、福島孝徳脳腫瘍・頭蓋底センター

北海道札幌市西区宮の沢

良性の脳腫瘍とは?

良性の脳腫瘍(のうしゅよう)としては、髄膜腫(ずいまくしゅ)や神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)が代表的なものとして挙げられます。これらの多くは手術によって摘出可能であれば完治できる病態です。しかし脳神経や脳血管を巻き込んでいるような場合も多く、摘出には正常組織にやさしい手術が必須です。

福島式鍵穴手術

福島式鍵穴手術とは、脳外科手術で必要な開頭の範囲を最小限にとどめ、患者さんの身体的な負担とリスクを抑える術式です。従来の開頭手術と比較して、非常に小さい範囲の開頭で手術を行うため皮膚切開も小さくなり、術後の回復も早くなります。この術式の実践には熟達した外科手術の技術が必要です。

鍵穴手術の方法

「図1」は「従来の開頭」です。大きく頭蓋骨を開け腫瘍を取ります。開頭範囲が広く、周囲の脳を十分に避けなくてはなりません。「図2」は「福島式鍵穴手術」です。小さく開けた開窓部から大きな術野(手術を行う、目で見える部分)を得て腫瘍を取ります。手術をする際の開頭範囲を小さくして脳にやさしい手術をすることで、患者さんの負担を減らし、手術侵襲(しゅじゅつしんしゅう)(手術による体の負担)を少なくします。このためには開頭をする場所が重要で、正確な解剖学的知識と術者の経験が必要となります。

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図1 従来の開頭
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図2 福島式鍵穴手術

鍵穴手術の症例1 (聴神経腫瘍)

聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)はめまい、耳鳴り、聴力低下などで発症する良性腫瘍で、聴神経の中でもバランスに関係する前庭神経から発生する腫瘍です。周囲には顔面神経などの脳神経が近接しているため繊細な手術が必要で、鍵穴手術の良い適応です。「図3」は開頭位置と皮膚切開の範囲、「図4」は術前後の画像です。腫瘍が摘出され良好な手術結果であることがわかります。

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図3 聴神経腫瘍における鍵穴手術
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図4 聴神経腫瘍のMRI
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写真1 腫瘍摘出前の術中写真

鍵穴手術の症例2 (嗅窩部髄膜腫)

髄膜腫(ずいまくしゅ)は脳を包んでいる髄膜(硬膜・くも膜)から発生する腫瘍です。今回提示している症例は嗅窩部(きゅうかぶ)と呼ばれる嗅神経が、においの細胞と交通する部位の髄膜から発生した腫瘍です。

従来の方法だと、額(ひたい)の中心から耳の前まで大きく切開し、こめかみの辺りを中心とした大きな開頭で摘出されていました(前頭側頭開頭といいます)。鍵穴手術の技術を用いると、眉の上から、3cm程度の小さな開頭で摘出が可能です。「写真2」は開頭位置・範囲、「図5」は術前後の画像です。腫瘍が全摘されているのがわかります。

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写真2 嗅窩部髄膜腫における鍵穴手術
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図5 嗅窩部髄膜腫のMRI

患者さんにやさしい手術を

鍵穴手術は入口を小さくすることで術後の疼痛(とうつう)(痛み)などが軽減されることはもちろん、頭の中での操作にも高度で繊細な技術が用いられており、脳への過度な圧迫等の負担も軽減されています。

細部の剥離なども専用の手術器具で適切に行うことができます。その結果、患者さんに負担の少ないやさしい手術を提供しています。

更新:2024.07.29