僧帽弁閉鎖不全症:外科的手術が困難な僧帽弁閉鎖不全症に立ち向かう

札幌孝仁会記念病院

循環器内科

北海道札幌市西区宮の沢

僧帽弁閉鎖不全症とは?

心臓には4つの弁があり、心臓の左側に僧帽弁(そうぼうべん)と大動脈弁、右側には三尖弁(さんせんべん)と肺動脈弁があります(図1)。心臓は体に栄養や酸素を送るために、収縮運動をしながらポンプのように血液を送り出しています。

図
図1 心臓の解剖

このなかで、僧帽弁は、左心房から左心室に血液を送り出し、その送り出した血液が左心房へ戻らないよう心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりしています。

僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)とは、その僧帽弁がうまく閉じなくなり、血液が左心室から左心房に逆流してしまう症状のことをいいます(図2)。

図
図2 僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症の症状

僧帽弁閉鎖不全症は、心不全を引き起こし、死に至る可能性のある病気です。代表的な症状には、息切れ、動悸(どうき)、疲労、めまい、咳(せき)、足首の腫(は)れ、尿量低下などがあります(図3)。

図
図3 僧帽弁閉鎖不全症の症状

僧帽弁閉鎖不全症の検査と診断

僧帽弁閉鎖不全症の重症度や心不全の程度を診断するうえで、症状の評価とともに、血液検査、胸部X線検査、心電図検査、心エコー(超音波)検査、心臓カテーテル検査、経食道心エコー検査などを行います。

僧帽弁閉鎖不全症の重症度は、心エコー検査で判定します。定性評価法(ていせいひょうかほう)(数値では表現できない対象を評価する方法)と定量評価法(ていりょうひょうかほう)(数値化されたデータをもとに客観的に評価する方法)があり、それぞれ軽度、中等度、重度の3段階で評価します。

経胸壁心エコー検査

胸の表面(胸壁)から人間の耳に聞こえない超音波(エコー)を当てて心臓の内部を探る検査で、体に負担がなく、ベッドサイドで簡便に行うことができます。

僧帽弁閉鎖不全症の治療

軽度から中等度の僧帽弁閉鎖不全症で自覚症状もない場合は、特に治療をせずに経過だけを見ます。経過を見なければいけないのは、何年か後に進行してくる例があるからです。

心不全を合併する場合は、利尿薬や血管拡張薬(けっかんかくちょうやく)などの薬による内科的治療を行い、①心臓の負担を減らす、②不整脈(ふせいみゃく)を予防する、③血栓(けっせん)(血の塊(かたまり))ができるのを予防するなどの治療を行います。ただし内科的治療は、あくまで進行を抑える対症療法(※)であり、僧帽弁そのものを修復することはできません。

中等度〜重度の場合、一般に呼吸困難などの症状が出ていたり、心臓の負担が増加(左心室の収縮力の低下、左心室の拡大、心不全が出現)していたり、心房細動などの不整脈が生じていたりする場合は、根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)に向けた治療が必要で、その基本は手術となります。超音波検査で重度の逆流を確認できれば手術を検討します。

外科手術

僧帽弁形成術、置換術(ちかんじゅつ)が主な術式で、僧帽弁の逆流をなくすことが目的です。心臓を止めて行う必要があるため、人工心肺を使用して行います。外科手術には長い歴史もあり、安定した成績が出ています。外科手術を受けることができる患者さんは、この治療法が第一選択になります。

経皮的僧帽弁接合不全修復術(けいひてきそうぼうべんせつごうふぜんしゅうふくじゅつ)(マイトラクリップ)

外科手術が必要でなんらかの理由で手術を受けられない、もしくは手術のリスクが高い患者さんに向けた新しい治療法で、「マイトラクリップ」と呼ばれています。僧帽弁の逆流を軽減することが目的であり、胸を切開する従来の外科手術(開胸手術(かいきょうしゅじゅつ))よりも体にかかる負担が少ないため、年齢や持病のために、これまで手術を受けることが難しかった患者さんに対しても治療が可能となります。

治療は全身麻酔下に行われ、心臓超音波専門医による経食道心エコー検査を参照しながら手術を進めていきます。足の付け根からカテーテル(医療用の細い管)を挿入し、右心房から心房中隔を通って左心房に進めていきます。ガイドカテーテルからクリップのついたクリップデリバリーシステムを僧帽弁の適切な位置まで持っていき、クリップを留置します。

逆流が残存している場合は、クリップを置き直すことが可能で、追加のクリップを留置することもできます。クリップを留置し終えたら、足の付け根の止血を行い治療が終了します。通常は術後数日で退院することができます(図4)。

図
図4 マイトラクリップ治療

当院では2022年3月より僧帽弁閉鎖不全症に対するマイトラクリップを用いた加療を開始しました。医師(循環器内科専門医、心臓血管外科専門医、麻酔科専門医)・看護師・臨床検査技師・放射線技師・薬剤師・栄養士・心臓リハビリテーション指導士など、当院全体の力を合わせて、僧帽弁逆流をただ単に減らすだけではなく、心不全の再発予防に重点を置いて、全人的なアプローチで治療に取り組んでいきます。

(※)対症療法:病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起きている症状を和らげたり、なくしたりする治療法

更新:2025.02.06