大動脈疾患:あの手この手で破裂を防ぐ!大動脈瘤の最新治療
札幌孝仁会記念病院
心臓血管外科、心臓血管センター
北海道札幌市西区宮の沢

大動脈瘤とは?
心臓から送り出されるすべての血液は、体のなかで一番太い血管「大動脈」に流れ込みます。直径が2〜3cm、1分間に何リットルもの血液が流れているこの大動脈の壁が何らかの原因で弱くなり、部分的に膨らんでしまったものを大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)といいます。動脈硬化(どうみゃくこうか)が一番多い原因であるため、寿命が長くなった現代において年々増加している病気です。
大動脈瘤の病気の特徴
大動脈瘤は、”さっきまで元気だった人が突然死する”非常に怖い病気です。一度できてしまった大動脈瘤は時間とともに大きくなり、決して小さくなることはありません。そして破裂するまで症状がほとんどないのが特徴です。ひとたび破裂すると、大動脈瘤のある場所に激痛が走り、出血による血圧低下でほとんどの人がそのまま死亡します。
すでに大動脈瘤ができていたとしても、血液検査はもちろんのこと、X線写真でも見つかることは少ないです。そのため、一般の健康診断で発見されることがほとんどないのが、この病気のもう1つの怖いところです。それゆえ別名「サイレントキラー(静かな殺人者)」ともいわれています。
病気の原因と見つけ方
大動脈瘤の原因で最も多いのは動脈硬化であるため、高血圧の方、喫煙の習慣のある方、血のつながった家族に大動脈瘤の人がいる方も発症する危険が高いといわれています。まれに感染症や外傷が原因となる場合もあります。70歳以上の高齢者に発症しやすい病気ですが、遺伝的素因(生まれつきの性質)で大動脈が弱い方は、若年者でも発症します。
大動脈瘤はほとんどがほかの病気の検査などで偶然発見されるため、大動脈瘤の素因(病気になりやすい素質)のある方はCT検査を含む高度健康診断を行い、偶然見つかる機会を増やすことが重要です。
治療法
飲み薬や注射で治療することはできません。手術だけが破裂を予防する唯一の治療法です。手術には、人工血管置換術(じんこうけっかんちかんじゅつ)とステントグラフト内挿術(ないそうじゅつ)の2通りの方法があります。
人工血管置換術(図1)

胸にできた大動脈瘤(左)を切除し人工血管に置換した(右)症例
大動脈瘤のある胸やお腹(なか)を切開し、大動脈瘤を露出して人工血管に交換する手術です。破裂を予防する最も確実な方法ですが、外科医には高い技術が要求されるほか、患者さんにとっても体の負担の大きな治療です。
ステントグラフト内挿術(図2)

お腹にできた大動脈瘤(左)にステントグラフトを挿入した(右)症例
ステントグラフトとは、形状記憶合金でできた骨組み「ステント」に、人工血管「グラフト」を縫いつけた筒状のものです。
ステントグラフトを血管内に留置することで、ステントグラフトがバネの力で血管内に張りついて、大動脈瘤に直接血流が当たらなくなり破裂を予防します。いくつかの条件を満たす大動脈瘤にしか行えませんが、人工血管置換術に比べ、患者さんへの負担の少ない手術です。
大動脈瘤治療は、できた場所や病気の範囲、患者さんの耐術能(たいじゅつのう)(手術の負担に耐える力)など患者さんごとに千差万別です。同じ患者さんでも、大動脈瘤によって負担の少ないステントグラフト内挿術と、確実性を重視した人工血管置換術を使い分けることもあります。
また大動脈瘤が広い範囲にある場合は、ハイブリッド手術(図3)を行います。ハイブリッド手術とは、人工血管置換術とステントグラフト内挿術を組み合わせることで置換する範囲を少なくし、手術の質を下げることなく患者さんへの負担を減らす治療です。

人工血管置換術とステントグラフト内挿術を併用して大動脈を全長にわたり治療した症例
更新:2025.02.06