より安全な高齢者の麻酔管理をめざして
札幌孝仁会記念病院
麻酔科
北海道札幌市西区宮の沢

高齢者の麻酔の特徴
皆さんは「全身麻酔」と聞いて何を連想しますか?例えば、「手術」「意識がない」「危険」などでしょうか。確かに手術には必要で、手術を意識がないうちに終わらせる手段ですし、合併症を起こす危険も皆無ではありません。
では「”高齢者の”全身麻酔」と聞いたらいかがでしょうか。より危険度が増すような感じがしないでしょうか。具体的には、麻酔から覚めづらい、いろいろな合併症を起こしやすいなどの事柄が含まれるかと思います。
高齢者の麻酔を支えるために
当院では高齢の患者さんにもより安全に麻酔を受けてもらうために、簡易的脳波モニタリング装置(図1)を採用しています。この装置は手術室間の移動が容易なサイズにもかかわらず、前頭葉(大脳の前部の領域)の脳波モニタリングからリアルタイムに麻酔の深さを推定することが可能です。

(画像提供:マシモジャパン株式会社)
一般的には麻酔が深くなるにつれ脳波を構成する成分の周波数がだんだん小さくなり、通常覚醒時には見られないデルタ波(周波数が0.5〜4Hz未満の成分)などの徐波(比較的周波数が小さい波のこと)領域が出現してきます。逆に麻酔から覚めるときには徐波成分が消えていき、覚醒時には速波(比較的周波数が大きい波のこと)が主体となります。
この装置では実際の脳波波形を最大4チャンネル表示すると同時に、脳波成分の周波数解析を実施し、リアルタイムのEEG(脳波、図2①)とともにPSi(患者状態指標、図2②)やDSA(周波数スペクトル密度配列、図2③)といった数値の経時的変化が一目瞭然となるようなグラフを表示します。例えば全身麻酔下の適正なPSi値は25〜50とされていますが、実際の臨床でもPSi値がこの範囲内にあるかどうか確認しながら麻酔しています。加えてDSAのグラフから周波数成分の変化をみることで、麻酔深度の調節の参考にしています。

(画像提供:マシモジャパン株式会社)
脳波およびその解析データをモニタリングすることで、適切な麻酔深度を確保しながら麻酔薬による体への負担が少しでも軽減されることが期待されます。このことは予備的な体力が減少した高齢者に安全な麻酔を提供するうえで、特に重要になると思われます。
更新:2025.02.06