脊髄損傷:突然やってくる脊髄損傷

札幌孝仁会記念病院

脊椎脊髄外科

北海道札幌市西区宮の沢

脊髄損傷とは?

脳からの多くの神経が、1つにまとまって神経の束となったものが脊髄(せきずい)であり、この脊髄が傷つくことを脊髄損傷(せきずいそんしょう)(略して、脊損(せきそん))といいます。転倒、転落、交通事故、スポーツなどで、背骨が強い力で曲がったり伸びたりしたときに起こります。

脊損と聞くとすべて重症のように聞こえますが、損傷の場所や程度によって手がしびれるだけのような軽いものから、手足が動かない、感覚もないなどの重いものまでさまざまです。

脊髄損傷になりやすい人

転落や交通事故、スポーツのような場合は、比較的若い人が脊損になる可能性がありますが、転倒は高齢者に多く、特に室内での平地転倒が多いのが特徴です。近年、外出や運動する機会が減少したことが原因で足腰の力が低下し、とっさに手を出して転倒の衝撃を減らす反応が鈍くなったため、頭や腰を直接打撲してしまうのです(図1)。

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図1 脊損のイメージ

背骨が曲がったり伸びたりしただけでは、脊髄が損傷されることはありません。なぜなら、背骨の動きの限度を越さないように、靭帯(じんたい)があり、関節があるからです。ただし、曲がったり伸びたりする力が強くて、これらの構造が壊れた場合や背骨が骨折した場合は、その限りではありません。

高齢になると骨粗(こつそ)しょう症(しょう)により骨折しやすい状態になってくることがあります。なかにはゴムのように柔らかいはずの靭帯が骨のように硬くなってしまうことにより、さらに骨折しやすい状態の患者さんもいます。

検査・診断

意識状態、血圧、脈などのバイタルサインを確認してから、手足の動きや感覚の状態を診察します。患者さんの状態を見ながら、X線やCT、MRI検査を行って診断します。

X線やCTは骨折などの骨の状態を主に確認します。MRIは脊髄や脊髄から出る神経、靭帯や筋肉などの状態、出血の有無などを確認し、障害を受けている脊髄の部分を確定します。

総合的な治療

しびれはあるが手足は動かせる、歩けるなど、症状が軽い場合は、薬やリハビリテーションなどで症状の回復を促します。脊髄の圧迫が原因で症状の改善が見込めない場合は、脊髄の圧迫を解除する手術を検討します。将来的には自宅で生活することができます。

手足が動かない、感覚がないなど、症状が重い場合は、骨がずれたり血の塊(かたまり)(血栓(けっせん))が脊髄を圧迫していることが多いため、手術して脊髄の圧迫を解除したり、骨がずれないように金属を使って固定したりします。その後、高気圧酸素療法を併用しながら本格的にリハビリテーションを開始します(図2)。

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図2 脊損の治療

治療の幅を広げる連携

当院は、症状が重い患者さんに対してさらに、札幌医科大学神経再生医療学部門再生治療推進講座と連携して、後遺症の軽減をめざす再生医療を行っています。自分の骨髄から採った細胞を増やして静脈内に投与する方法です(図3)。損傷したところに直接投与するのではないので、体への負担は少ないです。ただし、効果には個人差があり、投与が勧められない持病や合併症がある場合は受けられません。

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図3 再生医療の仕組み

また、孝仁会グループの道東の旗艦病院(きかんびょういん)である釧路孝仁会記念病院と連携して、当院でも「自由診療」(保険適用外)による再生医療を行うことを考えています(現状では計画段階です)。

「保険診療」による再生医療は、受傷後間もない方のみが対象になりますが、釧路孝仁会記念病院の再生医療は、受傷後時間が経過した方でも対象となります。この治療は厚生労働省へ届け出を行っており、安全性と効果の可能性について認められたものです。ただし、効果には個人差があります。当院での開始時期は未定ですが、現在でも釧路孝仁会記念病院で治療を受けることは可能ですので、お気軽にご相談ください。

更新:2024.07.29