トモセラピー ——広範囲のがんを高精度照射で一度に治療——
札幌孝仁会記念病院
SAFRA札幌高機能放射線治療センター
北海道札幌市西区宮の沢

トモセラピーの強み
多数の方向から放射線の強さを調整して照射することで、体の中で線量の強弱をつけることが可能ですが、これをIMRT(intensity-modulated radiation therapy:強度変調放射線治療)といいます。通常40cmほどの限られた範囲でしかIMRTを行うことができませんでした。
このトモセラピーはCTのような構造を採用しており、全身CTを撮像するかのように、全身のIMRTが容易にできます。がんはしばしば広範囲に広がりますが、これを一度にIMRTで治療することが可能です。

複数の脳転移に対するトモセラピー
現代の画像診断では、1mm以下の小さながん細胞をCTやMRIなどで捉えることができません。脳に転移が出現した場合、それ以外の部分にもがん細胞が存在していることが多く、脳全体に放射線治療が必要な場合があります。このようにピンポイント(点)ではなく領域(面)で放射線治療が必要な場合にトモセラピーが威力を発揮します。線量の強弱をつけたIMRTで、必要な照射範囲を一度に治療できます。
「図1」はトモセラピーによる複数の脳転移に対する治療の例です。脳全体に存在する微小な転移に対しては、脳全体を中等度の線量で均一に照射する一方で、一定の大きさを持つ複数の脳転移(赤色矢印)に対しては高線量を照射しています。それと同時に、正常な眼球(緑色矢印)や、脳の中でも特に線量を下げたい記憶障害にかかわる部分(水色矢印)の線量を下げることが可能となっています。

悪性胸膜中皮腫に対するトモセラピー
肺の周りに多数のがんが出現する悪性胸膜中皮腫(あくせいきょうまくちゅうひしゅ)も、トモセラピーが得意とする疾患です。肺や心臓などを極力照射せずに、がんが広く存在する範囲を「面」で治療することが可能です。
「図2」はトモセラピーによる悪性胸膜中皮腫に対する治療の例です。肺の表面を覆(おお)う胸膜のいたるところにがんが発生しています(赤色矢印)。このすべてに高線量が投与されています。
一方、正常な心臓(水色矢印)や正常な対側の肺(緑色矢印)にはほとんど照射されていません。さらに、病気のあるほうの肺(黄色矢印)に関しても、極力放射線を当てないようにしており、放射線治療による肺障害のリスクをできる限り低減させています。

トモセラピーの対象疾患
がんが広い範囲に存在する場合、陽子線治療やサイバーナイフでは治療が難しいことがあります。一方でトモセラピーはそのような病態の患者さんに対する治療を得意としています。個々の患者さんのがんの状態により、ベストな高精度放射線治療を検討し、提案します。
トモセラピーの保険適用となる疾患は幅広く、脳腫瘍(のうしゅよう)(脳転移を含む)、頭頸部腫瘍(とうけいぶしゅよう)、肺がん、食道がん、縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)、肝(かん)がん、膵(すい)がん、腎(じん)がん、膀胱(ぼうこう)がん、子宮頸(しきゅうけい)がん、肺転移、肝転移、骨転移(こつてんい)、リンパ節転移など多岐にわたりますが、個数などに制限があります。まずは主治医にご相談いただき、当院の外来受診、もしくはセカンドオピニオンを検討してください。
更新:2025.02.06