肺がん(外科的治療):肺がんとともに心の不安を取り除きます

札幌孝仁会記念病院

呼吸器外科

北海道札幌市西区宮の沢

早期段階の肺がん

2人に1人ががんにかかるといわれる時代ですが、やはりがんと診断されると心に重くのしかかるものがあります。肺がんは、国内でがん死亡者数が最も多い病気です。しかし、早期の段階では手術によって完全に取り除くことが可能な場合があります。手術後に追加治療が不要となる場合もあります。早期発見・早期治療が肺がんでは特に重要です。

肺がんを疑ったら早めの手術をお勧めしています

当院には高度健診センターがあります。こちらで早期発見された肺がんに対して、外来でさらに詳しく調べます。肺がんの診断には通常、気管支鏡検査を行いますが、2023年9月現在常勤の呼吸器内科専門医が不在のため、当院ではCTガイド下肺生検を行っています。

PET(ペット)-CT検査で肺がんが強く疑われる患者さんには、術前検査を省略して手術を行うことがあります。その場合には迅速病理診断を行います。手術中に15分ほどで肺がんかどうかが判明します。肺がんの診断の場合には続けて肺切除を行います。

低侵襲内視鏡手術を行っています

早期に退院して、術前と同じ生活に復帰してもらいたいと考えています。そのために低侵襲(ていしんしゅう)な(体に負担の少ない)手術を行っています。実際には脇の下に5cm程度の小さな創(きず)で、なるべく1か所で手術を行っています。手術翌日から、立って歩くことが可能です。術後合併症がなければ1週間程度で自宅退院となります。

CT検査の進歩に伴い、小さな肺がんが見つかる頻度(ひんど)が増えています。肺がんの外科手術は肺を切り取ることです。必ず肺は小さくなります。ただし、がんが小さい場合はなるべく小さく切除します。これを区域切除といいます。そうしてできるだけ健康な肺を残すことで、手術後に運動しても、息切れしづらい状態を保ちます。もともとの肺活量が少ない患者さんや、術前から軽い運動で息切れする患者さんに対しては、より小さい範囲の切除である部分切除を選択する場合もあります。さらに体力に心配のある患者さんには肺切除ではなく陽子線治療をお勧めする場合もあります。大切なのは健康寿命です。手術では残念ながらがんの一部が残ってしまうことがあっても、放射線治療や薬物療法を併用することで、がんが悪さをしない状態を維持して、家族と一緒に過ごす時間を可能な限り長くできるように努めています。

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写真1 内視鏡手術

ロボット支援手術という選択肢

肺がんの手術には開胸手術(かいきょうしゅじゅつ)、内視鏡手術、ロボット支援手術といった選択肢があります。ロボット支援手術のメリットはなんといっても立体視できることで、細かい操作も得意です。メリットについては多くの情報があるので、誰も書かないであろうデメリットをあえて記載します。

1つ目は、広範囲に癒着がある症例では使用できないことです。結核や肺炎を患ったことがある患者さんでは使用できない可能性があります。2つ目は、内視鏡手術だと最小で1か所の皮膚切開で手術可能ですが、ロボット支援手術はロボットの手を入れる穴を複数(通常は5か所)開ける必要があります。3つ目のデメリットとして、出血が起こった場合、ロボット支援手術の続行が困難な場合があります。

どの手術方法にも一長一短があります。ロボットは手術道具の1つであり、それで完結することが優れているわけではありません。患者さんの状態に応じて開胸、内視鏡、ロボットを使い分けています。

左右の両側気胸を同時に手術

当気胸センターでは1か所の創で左右同時気胸手術を行っています。気胸とは、肺から空気が漏れ、肺がタイヤのパンクのように潰れてしまう病気です。

これまでの気胸手術317件(2010年1月〜2020年12月)を検討したところ、患者さんは気胸を平均2.2回発症していました。気胸は繰り返します。肺は左右2つありますので、同じ側の気胸を繰り返すとは限りません。左右両方とも気胸となった患者さんが約23%もいました。実に約4人に1人の割合で、治療した側とは反対の気胸を発症しています。気胸患者さんはその度に胸腔ドレーン(胸壁を切開し、胸腔に入れるチューブ)を挿入され、さらに手術を受け、これら痛みを伴う治療は1人平均3.0回でした。

気胸は若い男性に多い病気です。なんとか痛みを伴う治療の回数を減らせないかと考え、最近では左右の両側気胸を同時に手術しています。左右の気胸を過去に経験したことがある患者さんはもちろん、25歳以下の患者さんで、術前CTで両側肺尖に明らかなブラ(肺の表面にできた薄い袋状の病変)を認める場合、患者さんの同意があれば両側同時手術を行っています。

患側だけの手術でも創は1か所、両側同時手術でも創は1か所で行っているため、ほとんどの方が両側同時手術を選択しています(写真2)。ブラを切除しない術式を第一に選択しており、可能な限り術前胸腔ドレーンを挿入しません。そのため、痛みを伴う治療1回で、気胸の治療を完了させることが可能となっています。

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写真2 単孔左右気胸同時手術(術後)

これらの治療を希望する患者さんには、当院臨床試験に同意していただく必要があります。痛いのが苦手、両側気胸を繰り返している、胸腔ドレーン挿入を回避したい患者さんは、お気軽にご相談ください。

更新:2024.07.29