冠動脈疾患:古くて新しい冠動脈バイパス手術の実際
札幌孝仁会記念病院
心臓血管外科
北海道札幌市西区宮の沢

冠動脈疾患とは?
心臓は、全身に血液を送る筋肉でできたポンプで、動き続けるためには酸素が必要です。冠動脈疾患とは、心臓の表面を走行し心筋(しんきん)に酸素を届ける血管(冠動脈(かんどうみゃく))が、動脈硬化(どうみゃくこうか)で狭窄(きょうさく)(細くなること)し、血流が減少することにより、心筋が酸素不足に陥る病気です。大きく狭心症(きょうしんしょう)と心筋梗塞(しんきんこうそく)の2つに分けられます。心筋梗塞は、血液や酸素がいきわたらない状態から回復せず心筋が死んでしまう状態で、より重症です。
症状
典型的な症状は、胸に激しい痛みを感じる、強く圧迫される感じ、悪心(おしん)(むかむかする)・嘔吐(おうと)、冷汗、失神などです。これらの症状は、左前の胸部(きょうぶ)や胸部中央に最も多く認められますが、みぞおちや背中に出ることもあります。また、顎(あご)の痛み、左肩の痛みやしびれなど、胸から少し離れた場所に症状が出る場合もあります。
心筋梗塞の症状は、通常は狭心症よりも強い症状が出ます。また症状の持続時間が長く、30分以上続きます。
検査・診断
冠動脈疾患の検査・診断は、血液検査、心電図、心エコー、CT検査、核医学検査などで進めますが、最終的な診断と治療法の決定には、冠動脈カテーテル検査が必要になります。
冠動脈カテーテル検査では、カテーテル(医療用の細い管)を血管内に通して、心臓の動きや冠動脈の状態を調べます。これらの検査は循環器内科で行われます。
治療
薬物治療、カテーテル治療、冠動脈バイパス手術の3つが挙げられます。薬物療法が基本ですが、薬物でも症状が改善しない場合は、カテーテル治療または冠動脈バイパス手術を検討します。この治療選択では、病気のある冠動脈の場所、数、形態、さらに全身の状態を含めて、循環器内科医師と心臓血管外科医師とで検討し、患者さんに説明して決定します。
カテーテル治療か冠動脈バイパス手術か
冠動脈は、心臓と接する大動脈の根元から右と左に1本ずつ分かれた後、左はすぐに2本に分かれ、一般的には3本と表現されます。また2本に分かれる前の部位は左主幹部(ひだりしゅかんぶ)と呼ばれ、命に最もかかわる部位です。
病変が限られ、左主幹部に病変がない場合は、カテーテル治療が勧められています。病変が多発していたり、左主幹部に認められたりする場合は、冠動脈バイパスが勧められます。
カテーテル治療
カテーテル治療は、病変を直接血管内から治療する方法です。単純な病変だと、カテーテル治療でも冠動脈バイパス手術に劣らない効果がみられ、社会復帰や手術創(しゅじゅつそう)の点から選ばれる治療です。
冠動脈バイパス手術
一方で、冠動脈バイパス手術は、病変には触らず、病変の先の冠動脈に新たな血管をつなぐ方法です。病変が複雑な場合や持病(糖尿病、透析(とうせき)が必要な疾患、心臓の機能低下など)があると、再治療の頻度が少ないことや長期生存の点から選ばれる治療です。
患者さん一人ひとり条件が異なるため、循環器内科医師と心臓血管外科医師でよく検討し、最終的には患者さんと相談して最善と思われる治療方法を決定します。
冠動脈バイパス手術をより詳しく
冠動脈バイパス手術にはさらに、心臓を止めて行う方法と、心臓を動かしたまま行う方法(心拍動下冠動脈(しんはくどうかかんどうみゃく)バイパス術、図1)があります。持病を多く持つ患者さんには心拍動下バイパス術が選択されることが多く、当院では、大半の患者さんに心拍動下バイパス術を行っています。

ただし、患者さんの病状によっては、心臓を止めて行ったほうがむしろよいと考えられる場合もあり、その場合は心臓を止めて行うこともあります。
バイパス(血液の流れをよくするために作った新しい血管)を移植するのは平均3〜4か所(最大7か所程度)です。心臓を止めて行う方法と心臓を動かしたまま行う方法とで違いはなく、どちらの方法でも同等の質で冠動脈につなぐことが可能です。
冠動脈バイパス手術による術後死亡率は、当施設では0.4%(2015年1月〜2022年12月)であり、安全性の高い手術を行うよう努めています。
バイパスに用いる血管は、長期にバイパスが流れ続けることを最優先し、左右の内胸動脈(ないきょうどうみゃく)(胸の壁の裏側を縦に流れる動脈)と胃大網動脈(いだいもうどうみゃく)(胃の周囲の動脈の1つ)をなるべく使用しています(図2)。足りない分は、手や足の血管を使用します。内胸動脈は、特に動脈硬化になりづらい血管のため、左右の内胸動脈は、患者さんの冠動脈のうち最も大切と考えられる部位(寿命を左右する部位)に吻合(ふんごう)(縫ってつなぐ)します。通常、術後2〜3週間程度で退院可能です。

更新:2025.02.06