心臓弁膜症・狭心症・心房細動:小さな創で心臓を治す!MICSのすすめ
札幌孝仁会記念病院
心臓血管外科
北海道札幌市西区宮の沢

代表的な心臓手術とは?
心臓手術の代表的なものには、①心臓の中にある、逆流防止弁の修復手術、②心臓の筋肉に酸素を運搬する血管(冠動脈(かんどうみゃく))が細くなる病気(狭心症)に対する術(バイパス手術)、③心臓不整脈(しんぞうふせいみゃく)を引き起こす電気回路異常を修復する不整脈手術(MAZE(メイズ)の手術)、④心臓内に血栓(けっせん)(血の塊(かたまり))ができやすい人のための、血栓予防の手術(左心耳切除術(さしんじせつじょじゅつ))などがあります。
それらの手術は従来、胸の真ん中を20〜30cmほど切開し、その下にある胸骨(きょうこつ)という船型の骨を真ん中で割って手術をする必要がありました。最近になり、3Dの内視鏡や長尺ですが精度の高い手術機械などが発達し、要件を満たす患者さんでは、同様の手術が10cm未満の創(きず)で胸骨を割らずに施行することが可能になっています。
MICSってなに?
MICSとはMinimally(小さな) Invasive(侵襲(しんしゅう)〈体への負担〉の) Cardiac(心臓) Surgery(手術)という英語の頭文字をとった略語でミックスと読みます。具体的には従来の心臓手術を3Dの内視鏡カメラなどの最新の手術機械を用いて、より小さな創で施行する方法です(写真)。

MICSの特徴
MICSは小さな創で手術を行います。そのため、①従来の方法に比べて入院期間が短いこと、②手術後の運動制限がないこと、③出血量が少ないこと、④美容面に優れていることなどが、利点として今までの研究で報告されています。
内視鏡カメラを使用することで見やすくなるものもありますが、逆に欠点としては、症例によっては術野(手術を行う、目で見える部分)が遠くなり、手術操作が難しくなるため、①手術時間が延長すること、②従来の方法では使用しない特殊な機械などを使用することによる副作用などがあります(図1)。

私はよくMICS手術を患者さんに説明する際に”ボトルシップ”に例えて話します。”ボトルシップ”というのは瓶の口から長いピンセットなどを使って、瓶の中で船の模型を作るものです。「図2」のように、瓶の口が大きな瓶の中で、シンプルな小舟を作るのは簡単そうですよね。逆に瓶の口が小さく、瓶自体も小さい中で複雑な豪華客船を作るのはとても難しそうです(図3)。


MICS手術も同様で、瓶が患者さん一人ひとりの体、作らなければいけない船が、心臓弁の手術や冠動脈バイパス手術の内容(難しさ)に相当します。瓶の口というのはあくまで例えで、MICSの場合カメラを使用するので、創が大きいからやりやすいというわけではないです。特に当院では3D内視鏡を用いているため、手術によっては、むしろ視野良好となることも多いです。そのため、僧帽弁(そうぼうべん)や三尖弁(さんせんべん)などの手術は基本的にカメラのみの視野で行う完全内視鏡法で施行しています。あくまで患者さんごとに手術の難易度や適性は異なるということがポイントです。
従来の方法は、瓶を真っ二つに割って船を作り、最後に瓶を接着剤で止めて船を中に入れる感じです(図4)。船を作ることは簡単になりますが、接着剤が固まるまでは力が加わると瓶が割れてしまいますね。これは手術も同様で、従来の方法の場合、手術後3か月程度、主に腕や上半身を使った運動に多少の制限があります。ただ3か月ほどすればしっかりと治り、胸骨を割った場合も割らなかった場合も強度は同様になります。

最終的な違いは残る創跡にあります。簡単なボトルシップなのであれば瓶を割らずに作ったほうが得かもしれませんし、難しいボトルシップの場合は、瓶を割って船を作り、接着剤が固まるのを待ったほうが成功率は高いかもしれません。
患者さんに合わせた「オーダーメイド治療」が大事
先述のようにMICSは良い部分もあれば悪い部分もあります。また小さな創での手術に適した患者さんとそうでない患者さん、術後の仕事などの都合で可能なら早い社会復帰が必要な方、そうでない方など、患者さんの背景はそれぞれ違います。
当科のMICSチームは「オーダーメイド治療」をモットーに、体の特徴、患者さんの社会的な状況を細かくチェックして治療方法を検討しています。そのうえで複数の選択肢が考えられる場合は、患者さん本人や家族とともにたくさん話し合って決めることを心がけています。
私たちの手術前説明は大体30〜60分かかることが多く、また場合によって2、3度に分けて話をします。治療方法の利点欠点を包み隠さず話し、私たち外科医も患者さんも納得して手術という一大イベントに向かうようにしています。心臓手術は人生の大きなイベントです。心臓だけでなく「心」も一緒に治せる、そんな手術治療になるように!私たちと一緒に病気と闘いましょう!
更新:2025.02.06