急速に高まっている画像診断の需要

いわき市医療センター

放射線診断科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

放射線科の歴史を知る

放射線科は比較的歴史の新しい診療科の1つです。1895年にドイツ人のレントゲンによって発見されたX線を医療に応用することから始まったとすると、わずか100年程度の歴史しかありません。しかし近年、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)装置の普及によって急速に画像診断の需要が高まり、これに専門的にかかわる画像診断医の必要性が医療現場から上がるようになってきました。放射線科はこの画像診断の専門家である診断医と、放射線による腫瘍(しゅよう)などの治療の専門家である治療医から構成されていて、特に東北地方ではどちらも不足気味なのが問題となっています。

画像診断は先に述べたCTやMRIのほかに、一般のX線撮影や透視検査、超音波検査、シンチグラフィ、血管造影検査などがあり、いずれも専門家による診療が行われています(人手不足からそのいくつかを兼ねる場合や、他の診療科の応援を受けている場合が多いです)。

CTは現在、日本が人口当たりの普及率でダントツの1位とされており、100万人当たり100台程度が稼動しています。MRIはその半分ぐらいです。当然検査件数も膨大であり、先進国間の平均を大きく上回っているようです。しかもその大部分は何らかのがん診療にかかわっており、がんの診断・治療・経過観察など、それぞれのタイミングで頻繁(ひんぱん)に行われています。

どういった検査が選択されるのかは、EBM(臨床研究の成果を生かし、科学的根拠に基づいた治療を行おうとする考え方)に基づく公的な機関などが作成したガイドラインに沿う形で行われるのが理想とされ、それぞれのリスクと価値を秤(はかり)にかけた上で決められるべきものです。このために、がんごとのガイドラインが作成され、ネットなどで公表されています。しかし複雑で多忙な医療現場では、主治医の判断に委ねられているのが現状です。この場合もインフォームド・コンセント(説明と同意)が重要なのは言うまでもありません。

イラスト

がんを早期に見つける

最近はがんの早期診断が話題となっており、検診目的での画像診断が行われる例もめずらしくありません。乳がんのX線撮影(マンモグラフィ)や胃がん・大腸がんのX線透視検査は有用性が認められ、国が行うがん検診でもスクリーニングや精密検査として広く行われています。肺がんの早期診断に胸部CT検査が有用なのもよく知られていますが、費用対効果(コストパフォーマンス)の点からあまり広く行われるには至っていないようです。また、これらはいずれも被曝(ひばく)を伴うため、超音波検査や内視鏡検査への置き換えや、放射線量低減のための工夫が日々研究されており、検診を受ける人への不利益とならないような考え方が重要とされています。

近年話題のPET(陽電子放射断層撮影)検査についても、幅広いがんの早期発見が可能であるという価値の部分と、それなりの被曝が避けられない(FDG-PET・1回につき自然からの年間被曝量ほぼ1年分)というリスクの部分を秤にかけて選択するべきでしょう。

これに対し、がんの確定診断や手術・化学療法などの治療効果の判定に行われる画像診断は、個人の不利益とならないような範囲で何度も行われるのが容認されており、年間の許容される被曝量は特に決められていません。これはほかの先進国から非難されている部分でもあります。現在さまざまな国際的機関がこのことについても検討中であり、いずれ何らかの制限が決められるかもしれません。

がんの診断――画像診断医のかかわり方

一般的にがんの確定診断のためには何らかの画像診断がなされ、治療の前後に再びその評価のための検査を行うのが通常です。採血によるマーカー検査など病気の勢いを評価可能な臨床検査もたくさんあり、これらで置き換えることも可能ですが、実際に腫瘍の大きさやその遠隔転移の広がりをとらえるためには画像診断がほぼ必須となります。

より広い範囲を評価するためには撮影速度の速いCTや全身を一度に評価できるシンチグラフィが、局所の詳細な変化を観察するためには多種多様な画像を得ることができるMRIが有用で、概ねこのような基準で使い分けられているようです。治療前後の比較のためには同一の検査を行うことが求められますが、他の検査法で置き換えられる場合にはその限りではありません。

がんの良性・悪性の評価は、画像診断のみでもある程度の絞り込みが可能なものの、すべての分野で必ずしも確実ではありません。最終的にはがんの組織を直接検査する(病理検査など)ことで確定しますが、そのために行われる針などによる生検にも画像診断は威力を発揮します。生検すべき組織の部位の特定や、生検中の位置の確認に用いられる検査は、生検の精度を高めるために役に立つものです。一般には超音波検査やCTが用いられることが多く、やや特殊なデバイス(道具や装置)が用いられるなど、経験豊富な医師のスキルが要求される分野です。放射線科にはこの分野の専門家もたくさんいます。

血管の中にワイヤーや細い管状のカテーテルを挿入して行われる血管造影検査も、高いスキルを持った放射線科医によっても行われることがあります。血管造影検査は腫瘍の診断のみならず治療の方法としても広く行われており、例えば肝臓の腫瘍の診断と治療に関しては、日本の放射線科医らが世界をリードする立場にあります。血管造影などによる治療(IVRと呼ばれています)の活躍する場面は救急の現場にも広がっていて、がん以外の分野でも重要な役割を担っています。

がん診療における終末期においても病状の正しい評価は必要であり、画像診断を行うことがあります。正しい評価ががんの苦痛を取り除くために重要であり、それは決して過剰な医療行為ではなく、終末期をより豊かに過ごしていただくために、私たちは何をすべきなのか、必要な情報を与えてくれるものです。

おわりに

最近は原因不明の死の究明のため、亡くなられた方に対して画像診断が行われることが増えています。人口の高齢化に伴い、このような例でも未診断のがんが発見されることは決してまれではないようです。必ずしも直接の死因につながるものでなかったとしても、遺族にとって意味のある情報を得られることがあるかもしれません。

そう遠くない未来、人工知能による画像診断が実用的なレベルに達するでしょう。そのとき、臨床の現場にとって本当に必要とされる正確な判断を導き出すために、私たち画像診断医は、その橋渡しとして一層の精進を積み重ねてまいります。

更新:2024.10.24