増え続ける救急搬送件数、断らずに受け入れられる理由とは?受け継がれる「断らない救急」の文化

大垣市民病院

救命救急センター

岐阜県大垣市南頬町

断らない救急医療の実践

全国の救急車搬送人員数は1998年の356万件でしたが右肩上がりに増え続け、2009年に468万人、2019年には596万人と20年間で1.6倍以上に増加しています。当院でも救急車搬送人員数は同様に増加しており、2008年7,467台から2018年11,030台へと大幅に増えています(図1、2)。

グラフ
図1 救急自動車による救急出動件数および搬送人員の推移
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図2 当院の救急車搬送受け入れ人員数過去5年間は右肩上がりです

当院の救急車の受け入れ率(救急車応需率)は、過去10年ずっと99.9%以上となっています。残念ながら100%にならないのは、特定の専門医が学会等で不在のため、受け入れが難しい場合があるからです。それでも世の中で発生するほとんどの救急事案に対応する力を備えています。

どうして断らない救急医療を実践することができるのでしょうか?

一言でその答えを出すならば、それは「病院の文化」です。

救急部門の医師だけで年間40,000人以上の患者さんをすべて受け入れ、治療することは困難です。時には同じ疾患の患者さんが連続で搬送されてくる場合もあります。

写真
写真 患者さんを搬送してきた救急車がこのように並ぶのはよく見られます

当院は救急専従医が少なかった時代から、病院全体で救急患者を受け入れることを積極的に取り組んできました。断らない救急の実現のためには、緊急治療を行う手術室や血管造影室、全身管理を行う集中治療室や救急病棟など、すべての部門が受け入れを準備し、迅速に対応できる体制が必要となります。ここにはかなりのマンパワーとスタッフ間の意思統一が重要となります。

当院は開院以来、率先して救急患者を受け入れる体制を整えてきました。その頃に生まれた文化を心身に刻み込んだ当時の若手医師たちの多くが、各科のトップとして現在も当院で活躍しており、時が流れ、働くスタッフが変わり、救急件数が増加してもなお、断らない救急医療の実現を自ら掲げ、実践しているのです。

例えば、心筋梗塞(しんきんこうそく)の患者さんの緊急治療中に、胸が苦しい患者さんの救急車受け入れ依頼があります。もしかすると、また心筋梗塞かもしれないですが、それは一部の場合ですし、そもそも緊急治療が必要かどうかも患者さんを診察してみないと分からないので、受け入れます。

その患者さんが心筋梗塞だったとしても、他の病院に転院搬送するよりも当院で治療した方が速い場合が多いのが当院の周辺地域の実情であり、結果的に患者さんにとってはベストの選択肢となります。

実際に急性心筋梗塞だった場合、循環器の医師に報告すると「今対応できないのに何でこんなタイミングで受け入れたんだ?」とネガティブな感情や不満が出るのが通常ですが、当院では医師も看護師も「どうしたらこの患者さんの治療が速くできるか?」を考えて行動します。隣の血管造影室の予定検査を変更して、緊急治療を優先することもよくあります。

予定検査が遅れる患者さんには申し訳ないですが、これはお互い様。いつか自分が緊急治療が必要になり、救われる場合もあるからです。この考え方を多くのスタッフが持っている、これが大垣市民病院に受け継がれる文化なのです。もちろん、どうしても治療が行えない場合には速やかに近隣病院への受け入れ調整を行い、患者さんに不利益が生じないようにすることも大切なことです。

「断らない救急」という文化の進化

断らない救急という考え方が病院内に根付いていることで、救急外来では災害時を想定したさまざまな受け入れが可能になっています。交通事故で重症患者が複数名発生した場合の搬送であっても、応援医師を呼んででも受け入れることが当たり前になっています。2017年には、時間外に高速道路でのバスの事故で30人以上の同時搬送の依頼があり、事務スタッフまで招集し、通常の救急業務に支障がないようにして、受け入れ体制をとった実績もあります。

このような経験の積み重ねは、今後起こりうる南海トラフ地震や、水の都といわれる大垣市やその周辺都市での水害などさまざまな局面で生かせると考えています。

更新:2024.10.21