脳腫瘍を後遺症なく治療することはできますか?

滋賀県立総合病院

脳神経外科 放射線治療科

滋賀県守山市守山

脳腫瘍はすべて悪性なの?

脳腫瘍(のうしゅよう)は、脳や脳を包む膜、脳神経からできる腫瘍(原発性脳腫瘍)と、体のほかの部分にできたがんが脳に転移してくる腫瘍(転移性脳腫瘍)に分けることができます。1年間に、人口10万人当たり約15人が新たに原発性脳腫瘍と診断されています。原発性脳腫瘍は細かく分けると約150種類にもなりますが、大きくは良性と悪性に分けることができます。

良性脳腫瘍は、脳そのもの以外からできることが多く、周囲の組織との境い目がはっきりしていて、ゆっくりと大きくなります。悪性脳腫瘍は、周囲の組織との境い目がはっきりしておらず、しみ込むように速く大きくなることが多いです。

腫瘍のできる場所によって、手足の麻痺(まひ)、言葉の障害、目の見えにくさなど、さまざまな症状が出ます。さらに、脳は頭蓋骨(ずがいこつ)の限られた空間にあるため、腫瘍ができて頭蓋骨の中の圧力が高まると(頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん))、頭痛や吐き気が起こります。

最近は、脳ドックなどで無症状で見つかることも増えてきました。無症状で偶然見つかった場合、良性であれば様子をみていくのが良いこともあります。無症状でも良性でない場合、あるいは良性でもすでに症状がある場合は、治療を開始する必要があります。

手術は必ず後遺症が出るの?

脳腫瘍の治療は、手術、放射線治療、薬物療法の3つの方法に分けられます。腫瘍の種類によってそれぞれ効果のある方法が違い、1つの方法で治療する場合といくつかを組み合わせて治療する場合があります。

手術では、頭部を切開し、顕微鏡を使って拡大しながら慎重に病変を取り除いていきます。部位によっては、内視鏡(胃カメラのような器具)を使うこともあります。摘出する際に、すぐそばの脳や神経にダメージが及ぶ危険性があります。例えば、手足を動かす脳の領域に近い病変では手足の麻痺が、言葉の中枢に近い病変では言葉の障害が残る危険性があります。視神経を圧迫している腫瘍では、手術後に目が見えにくくなる危険性があります。こういった後遺症を残すことなく摘出が行えるように、さまざまな器具や技術が発展してきました。

ナビゲーションシステムは、車に搭載されているカーナビのような機能の装置で、手術中にどの部分を操作しているか画面上のMRIやCTの画像に表示されます。さらに、顕微鏡を通して見ている視野に病変の範囲を投影して写し出すこともできます(図1)。脳腫瘍の手術では非常に有用なシステムです。神経膠腫(しんけいこうしゅ)という悪性の腫瘍の場合は、腫瘍と脳との境い目が分かりづらいのですが、手術日の朝に特殊な薬を内服しておき、手術中に特殊な光を当てると腫瘍を赤く光らせることができます(術中蛍光診断(じゅっちゅうけいこうしんだん))。

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図1 術中ナビゲーションを使用して手術した症例
a.術前CTで作成した血管と腫瘍の像
b.術中、頭蓋骨を開く前に、腫瘍や血管を顕微鏡の視野に投影

手術の道具や技術の発展は日進月歩で、後遺症を避けて安全に効果的な治療が行われるよう工夫されています。

脳腫瘍の放射線治療とはどんなもの?

放射線治療は、体の外から高エネルギーの放射線を当てる治療です。当院ではX線を用いていますが、ガンマナイフと呼ばれる装置ではガンマ線を使います。放射線治療は手術できない場所の脳腫瘍や、手術で切除しきれなかった腫瘍も治療することが可能です。放射線治療技術の進歩によって、非常に精密な治療が可能となっています。

原発性の脳腫瘍に対しては、手術療法や薬物療法と組み合わせますが、正常な組織を守りながら高い線量の放射線を当てるために、強度変調(きょうどへんちょう)放射線治療という特殊な技術を用います。また、小さな転移性脳腫瘍などに対しては、非常に高精度な治療である定位(ていい)放射線治療(いわゆるピンポイント治療)で手術に匹敵する高い効果が期待できます(図2)。

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図2 肺がんの小脳転移に定位放射線治療を行った症例
a.小脳に約19mmの転移性脳腫瘍
b.定位放射線治療:腫瘍部に集中して照射
c.治療後腫瘍はほぼ消失

薬物療法に使う薬にはどんなものがあるの?

脳腫瘍の治療に使う薬には、さまざまなものがあります。ここでは、代表的なものをいくつか紹介します。

神経膠腫という種類の腫瘍は、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて治療することが重要です。標準的な治療として、手術の後、テモゾロミドという薬を内服しながら放射線治療を行います。この薬は、放射線治療が終わった後も定期的に内服します。さらに、ベバシズマブという注射薬も効果があり、2週間に1回、点滴を行います。

下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)という腫瘍のうち、プロラクチン(乳汁を分泌させるホルモン)を産生するタイプでは、手術せずにカベルゴリン(もともとはパーキンソン病の治療薬)を週に1回の内服で治療することができます。成長ホルモンを分泌するタイプ(先端巨大症)では、術後ホルモンの正常化が不十分な場合、ソマトスタチン誘導体というグループの薬を毎月1回注射することが効果的です。

このほかにも、さまざまな薬があります。腫瘍の種類に応じて、最も適切なものを選択して治療していくことが重要です。

脳腫瘍の治療には、手術、放射線治療、薬物療法があります。主治医とよく相談して、これらを適切に組み合わせて治療していくことが重要です。

更新:2024.10.08