心房中隔欠損症や卵円孔開存症に対するカテーテル治療とは?-心房中隔欠損症、卵円孔開存症
富山大学附属病院
循環器内科
富山県富山市杉谷
心房中隔欠損症や卵円孔開存症とは、どんな病気ですか?
心房中隔欠損症(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)とは、右心房と左心房の間にある心房中隔に欠損孔(けっそんこう)がある先天性の心臓病です。
最初は症状がないことも多く、学校健診のときの聴診の異常音や心電図異常で発見されることも多い病気です。症状としてはむくみ、全身のだるさや労作時(ろうさじ)の息切れなどの心不全症状が出現しますが、全く症状のない人も多くいます。心臓に負担がかかると、上室性期外収縮(じょうしつせいきがいしゅうしゅく)や心房細動(しんぼうさいどう)などの不整脈も起こりやすくなり、動悸(どうき)を自覚することもあります。加齢に伴い、欠損孔を通じて左心房から右心房への血流が増えることにより、病態が進行することが知られています(図1)。
一方、卵円孔開存症(らんえんこうかいぞんしょう)とは、胎児では胎盤を経由した血液が卵円孔を通して右房から左房へと導かれ、脳へ供給されます。出生後には卵円孔は不要となり閉鎖しますが、成人になっても卵円孔が開通しているのが卵円孔開存症であり、健常人の10~25%程度みられます。卵円孔開存症は一般的には治療は必要ありませんが、下肢(かし)などに生じた深部静脈血栓(しんぶじょうみゃくけっせん)が右房から卵円孔を通って左房に流入し、動脈に塞栓(そくせん)を生じる奇異性塞栓と呼ばれる病気を引き起こすことがあります。原因不明の脳梗塞(のうこうそく)と診断された患者さんに、卵円孔開存症は高頻度(ひんど)で認めると報告されています。いずれの病気も診断方法としては、心臓超音波検査で診断することが可能です。
心房中隔欠損症や卵円孔開存症の治療を教えてください
心房中隔欠損があるからといって、全例治療が必要なわけではありません。心房中隔欠損症では心臓に負担がかかっていない場合、基本的には治療は不要であり、経過観察となります。欠損孔を通る血流が増加し、心臓に負担がかかってくると治療が必要となります。心房中隔欠損を閉じる治療法としては、①開心術による外科治療、②カテーテルによる欠損孔の閉鎖術(へいさじゅつ)の2つがあります。
一方、卵円孔開存では欠損孔を通る血流が少なく、心臓に負担がかかることはありませんが、奇異性塞栓症による脳梗塞を起こしたことがある方は閉鎖治療を検討する必要があります。奇異性塞栓による脳梗塞は薬物治療に加え、カテーテルによる卵円孔開存に対する閉鎖術を行うことによって、脳梗塞の再発を大きく減らすことが2017年に大々的に報告されました。それを受け、日本においても2019年12月に奇異性塞栓症予防に対する卵円孔開存症に対するカテーテル閉鎖術が新たに認可され、当院はカテーテル閉鎖術の認定施設となっています。
奇異性塞栓症の診断や再発予防に関する治療には、脳梗塞の専門的な知識も必要であり、第二内科だけではなく脳神経内科や脳神経外科を含めたBrain Heart teamで診断および治療法を検討しています。
心房中隔欠損症の外科的治療とカテーテル治療のそれぞれの特徴を教えてください
心房中隔欠損症に対する外科的な手術は、全身麻酔で胸部を切開し、人工心肺を使って心臓を停止した状態で欠損部を直接縫合したり、欠損孔を人工の布で塞(ふさ)いだりする治療です。外科治療の利点としては、心房中隔欠損の位置や大きさによらず治療できること、治療の歴史が長いことなどが挙げられます。
一方、カテーテルによる閉鎖術(図2)は大腿部(だいたいぶ)の静脈を刺しカテーテルを挿入し、左心房までケーブルにつながれた閉鎖栓を運び、経食道心エコー(図3)で観察しながら、閉鎖栓で心房中隔を挟み、しっかりと固定されていることを確認し、閉鎖栓を放し留置します。カテーテル治療の特徴としては、胸を切らないため体への侵襲(しんしゅう)(負担)が少なく、すぐに社会復帰できる長所があります。カテーテルによる閉鎖術における注意点としては、留置後の閉鎖栓が脱落してしまうことや、閉鎖栓周囲の心臓の組織を傷つけてしまう‟心びらん“といった合併症があります。
どちらの治療を選択するかは術前の欠損孔の形態評価が非常に重要です。また、患者さんには外科的閉鎖術およびカテーテル閉鎖術、それぞれの特徴を十分理解した上で治療を受けていただくことが大切です。当院では循環器内科と心臓血管外科で協議し、いずれかの治療が望ましいかを十分検討した上で治療を行っています。2016年より当院では、心房中隔欠損症のカテーテルによる閉鎖術を行っていますが、今まで大きな合併症はなく治療後の経過も良好です。今後も患者さんに負担の少ない治療を安全に提供していきたいと私たちは考えています。
1.先天性心疾患で最も多い心房中隔欠損症は、中年以降になって初めて診断される方も多くいます。
2.心房中隔欠損症の閉鎖手術は、形態的にもカテーテル閉鎖術が可能な例も多くなり、当院でも治療成績は良好な結果が得られています。しかし、外科治療が適切な孔の形態もあり、胸部外科と協議してより良い治療法を提供しています。
3.奇異性塞栓による脳梗塞を発症した卵円孔開存症に対して、カテーテル閉鎖術による脳梗塞予防の治療が2019年12月より認可され、当院では心房中隔欠損症だけでなく、卵円孔開存症に対してもカテーテル治療が可能です。卵円孔開存症は原因不明の若年性脳梗塞の原因となっている可能性があります。
更新:2024.10.09