働く世代に増えている病気、「乳がん」について考えてみませんか

済生会吹田病院

乳腺外科

大阪府吹田市川園町

増加している乳がんー定期的な検診は重要

乳がんは30歳代から増加し始め、40歳代から60歳代がピークとなり、生涯に乳がんにかかる日本人女性は現在11人に1人といわれています(2013年現在)。乳がんで亡くなる女性は2016年に1万4000人を超え、1980年と比べ3~4倍となっています。女性の全年齢層では大腸がんや肺がんで亡くなる方が多いのですが、40歳前後を境に、乳がんで亡くなる方が増え始め、働く世代である35歳から64歳では、乳がんが死亡原因の第1位となっています(図1、2)。

グラフ
図1 女性の乳がん年齢階級別罹患率(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」をもとに作図)
グラフ
図2 女性の乳がん死亡数(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」をもとに作図)

欧米などでは、検診受診率の向上により早期発見が増え、死亡率が年々減少しています。その一方で、日本では国が定期的な検診受診を推奨しているものの、乳がん検診受診率は低く、死亡率の減少に至っていないのが現状です。ぜひ定期的な検診を受けましょう。

さまざまな機器を用いた診断、個別化が進む治療

乳がんの診断

乳がんの診断はマンモグラフィ(乳房Ⅹ線撮影)、超音波検査を行い、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)や針生検などの病理学的検査を用いて確定診断を行い、サブタイプ分類(乳がんの性質)なども行います。

マンモグラフィは乳がんの早期発見にとても重要ですが、日本人女性の乳房には、最近話題になっている「高濃度乳房(デンスブレスト)」が多く、病変の検出能が低下することが知られています。当院では、デジタルマンモグラフィ装置を導入しており、従来の2D画像では乳腺の重なりで隠れて見えなかった病変が、3Dマンモグラフィ(トモシンセシス)を併用することで、より鮮明に病変を描出することができます。

乳がんと分かった場合、乳房MRIで乳房内にどのくらい広がっているかを調べ、CT検査、骨シンチグラフィなどで乳がんの進行状況を判定します。

個別化が進む乳がんの治療

①縮小化する乳がんの手術

乳がんの手術は縮小傾向にあり、当院でも乳がんの進行度に合わせて乳房温存療法、センチネルリンパ節生検などの縮小手術を積極的に行っています。

乳房温存手術

腫瘍周辺の組織のみ切除し、乳房の多くを残すという手術です。薬物療法や放射線治療を併用し、より成功率の高い乳房温存療法を可能にしています。ただし腫瘍の大きさによっては、適応できない場合があります。縮小手術を可能にするためにも、乳がんの早期発見は重要です。

センチネルリンパ節生検(図3)
図
図3 センチネルリンパ節生検

乳がんの多くは進行すると腋(わき)のリンパ節(腋窩(えきか)リンパ節)に転移します。従来の手術では腋窩リンパ節をすべて取り除くこと(腋窩リンパ節郭清(かくせい))が一般的でしたが、腕のしびれやむくみといった後遺症が出ることも多くありました。最近では、がんのリンパ節転移を調べる検査「センチネルリンパ節生検」を行い、転移がなければ、腋窩リンパ節郭清を省略することができます。

②乳がんの性質(サブタイプ分類)に基づいた薬物療法

乳がんは比較的早期の段階から全身に微小転移が存在しています。手術前後に薬物療法を行い、この微小転移を制御することにより再発を減少させ、予後を改善することができます。薬物療法には内分泌療法、化学療法、分子標的治療があり、原発巣の腫瘍径、リンパ節転移などの従来からのリスク分類に加え、サブタイプに基づいた薬物感受性を考慮して選択しています(表)。

  HER2 Ki67 サブタイプ
ホルモン
受容体陽性
陰性 低値 luminal A
(内分泌療法)
陰性 高値 luminal B
(内分泌療法+化学療法)
陽性 問わず Luminal HER2
(内分泌療法+化学療法+抗 HER2 療法)
ホルモン
受容体陰性
陽性 問わず HER2
(化学療法+抗 HER2 療法)
陰性 問わず トリプルネガティブ
(化学療法)
表 サブタイプ(乳がんの性質)分類 Ki67:がんの増殖能を表す指標

当院では「化学療法センター」を開設し、乳腺専門医、がん化学療法認定看護師、がん専門薬剤師などがチームとなってサポートしています。

③高性能放射線治療機器を用いた専門性の高い放射線療法

乳がんは放射線が効きやすいがんであり、乳房温存術後に乳房内再発防止のための照射や、リンパ節転移の多い進行乳がんに対する胸壁、所属リンパ節領域への照射は局所再発リスクを下げるだけでなく、生存率も改善します。骨転移や脳転移などに対する緩和的放射線治療は、生活の質(quality of life/QOL)の向上・維持に非常に有効な治療手段です。

当院では乳がんの診断から治療まで一貫して行うことが可能であり、専門性の高い医療を提供しています。常勤医3人に加え、乳がん看護認定看護師も在籍しており、患者さんのみならず家族の支援も行っています。乳がんは働く世代に増えている病気です。ぜひ専門医に相談してください。

更新:2024.10.04

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