TAVI / 体への負担が少ない心臓弁膜症治療
山梨大学医学部附属病院
心臓血管外科、 循環器内科
山梨県中央市下河東

心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)とは?
心臓は、拡張と収縮を繰り返すことで、体中に血液を循環させる臓器で、この動きは1日におよそ10万回も繰り返されています。心臓の中は、左心房、左心室、右心房、右心室の4つの部屋に分かれており、血液を一方向へ効率よく流すために「弁」と呼ばれる構造が4つあります(図1)。

心臓弁膜症は、心臓にある「弁」がうまく働かない病気です。その主な原因は動脈硬化(どうみゃくこうか)で、年齢を重ねるごとに発症し、進行します。弁の異常には、弁の開きが悪く血液が流れにくい「狭窄症(きょうさくしょう)」と、弁の閉じが悪く逆流する「閉鎖不全症(へいさふぜんしょう)」があります。成人の心臓弁膜症は、「大動脈弁」と「僧帽弁(そうぼうべん)」に多く起こります。
心臓弁膜症の3つの治療法
心臓弁膜症は、自然治癒することはありません。その治療法は、初期段階では、薬で症状を緩和して経過観察する保存的(薬物)治療がありますが、重症になると、機能が低下した弁の修復や交換が必要になります。
従来は胸を開いて、人工心肺装置を用いて心臓を止めて行う弁形成術や、人工弁置換術などの外科的手術が一般的でした。外科的手術は、どんな種類の心臓弁膜症に対しても治療可能で、質の高い方法ですが、体への負担が大きいのがデメリットでした。
心臓弁膜症のなかでも患者さんが多い大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症には、それぞれ経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI(タビ))と、経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術という体への負担が少ない(低侵襲な)治療法があります。ここでは、当院で2017年から実施しているTAVIについて解説します。
大動脈弁狭窄症に対する低侵襲な弁膜症治療、TAVI
大動脈弁狭窄症は、心臓と大動脈を隔てている弁(大動脈弁)の開きが悪くなり、心臓内には強い圧がかかるにもかかわらず、全身に十分な血液を送り出しにくくなる病気です。
TAVIは、「胸を開かず」「心臓をとめることなく」、カテーテルという医療用の管を用いて、「人工弁」を患者さんの心臓に装着することができる治療法です(図2、3)。カテーテルは、足の付け根から通すことが多いですが、肩からや胸の一部を少しだけ切って心臓まで通すこともあります。いずれの場合でも、術後4〜5日で退院が可能です。

(画像提供:日本メドトロニック株式会社)

なぜ、今、TAVIなのか?
大動脈弁狭窄症の原因は、そのほとんどが加齢や動脈硬化です。つまり年齢が上がれば、患者さんが増える病気です。山梨県では、75歳以上の高齢者人口約12万人中、少なくとも4,000人の重症な大動脈弁狭窄症患者さんがいると推定されます。
大動脈弁狭窄症は、重症になると突然死もある非常に恐ろしい病気で、高齢の患者さんにとって生活の質を脅かす大敵なのです。「体への負担を減らす」ことを追求したTAVIは、このような患者さんのための新しい治療です。「TAVIで山梨の健康寿命の延伸に貢献したい」。これが私たちの思いです。
TAVIは、設備が整い治療経験が豊富な病院でのみ認められている治療法で、山梨県では2022年8月現在、当院のみとなります。
患者さん各々に適切な治療を提案する、当院「ハートチーム」
当院では「心臓弁膜症」に対して、豊富な経験を持つ循環器内科医・心臓外科医と、麻酔科医・看護師・心エコー検査技師・臨床工学技士・放射線技師・リハビリテーション技師・薬剤師、それぞれの分野に精通した多職種の医療スタッフが一丸となって、患者さんとその心臓病に取り組むチームがあります。それが、ハートチームです。
患者さんによって適切な治療は異なります。良い治療には、正しい治療選択が欠かせません。心臓弁膜症治療には、前述のように、弁形成術と人工弁置換術のような質の高い外科手術や、TAVI・経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術のような低侵襲治療があります。両方を行うことのできる当院のハートチームは、患者さんにとって偏りがない適切な治療選択を提案します。
TAV in SAV (外科的大動脈弁置換術後の人工弁機能不全に対する特殊なTAVI)
生体弁を用いて開胸下に外科的大動脈弁置換術(SAVR(サバ))を施行した場合、およそ10〜15年経つと生体弁が劣化してきます。生体弁が正常に機能しなくなった状態を、「生体弁機能不全」といいます。
これまでの対処法は、2度目の開胸手術を行うしか選択肢がありませんでした。2度目の開胸手術は、リスクが高くなることはいうまでもありません。
当院では、このような生体弁機能不全に対しても、TAVIができます。TAV in SAV(タブ イン サブ)と呼ばれる特殊なTAVIで、2度目の開胸を避けられ、術後の早期離床が可能です(図4)。ずっと待ち望まれていた治療法で、外科的大動脈弁置換術後の患者さんにとって、朗報であることは間違いありません。

(画像提供:日本メドトロニック株式会社)
更新:2024.04.26