新型コロナウイルス感染症などの新しい感染症への挑戦-総合感染症センター

富山大学附属病院

総合感染症センター 感染症科 感染制御部

富山県富山市杉谷

新興感染症とその対策

2020年に入り、新型コロナウイルス感染症という新しい感染症が中国から全世界に拡大し、大きな問題になっています。近年新たに確認された、公衆衛生上問題となっている感染症は、エボラウイルス感染症、エイズ、高病原性鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ(H1N1)2009など多くあります。今回の新型コロナウイルス感染症を含めて、1970年以降に確認された新しい感染症を新興感染症と呼んでいます。

人類は、新興感染症に対して、予防・診断・治療のあらゆる方面から多角的に研究を行い、抑え込んできています。特に、ワクチン、診断法、治療薬は、最新の科学を駆使して世界中で速やかに研究が進められ、対応してきています。

一方、私たちひとりひとりが取り組む予防の考え方は、新しい感染症に対しても変わらず、決まっています。それは、標準予防策と感染経路別予防策です。感染経路別予防策の中には、空気予防策、飛沫予防策、接触予防策の3つがあります。これらをしっかり守ることが重要です。

ひとりひとりができる対策

ウイルスをはじめとする病原体は目に見えないので、どの人のどの部分に付着しているか分かりません。標準予防策とは、「すべての患者」の「すべての部位」に病原体が存在するとみなして対処することです。具体的には、汗を除くすべての体液・分泌物・排泄物、粘膜、健常ではない皮膚、血液は感染性があるものとして対応します。空気予防策には、N95マスクと呼ばれる特別なマスクが必要です。飛沫予防策では不織布(ふしょくふ)を用いたサージカルマスクで対応可能です。接触予防策としては、石鹸を使った手洗いやアルコールを用いた手指消毒を行います。

さて、国や地域レベルでの対策の基本的な考え方を「図1」に示します。海外で新しい感染症が発生した場合には、まず日本国内になるべく侵入しないように、侵入を遅らせるように対策を開始します。空港や港で検疫や検査を強化する、いわゆる水際対策です。しかし残念ながら、今回のように国内に感染症が入ってくる場合があります。そのときに必要なことは、患者数増加のスピードを抑え、流行のピークを下げることです。これは国民の皆さまの協力が必要になります。ひとりひとりが感染対策をすることによって時間的余裕が生まれ、医療機関は体制を強化することが可能になります。このような時期には、少しでも不安がある場合はかかりつけ医などを受診したいという思いがあると思います。しかし、皆さまが一気に受診すると、通常の受診数をはるかに超えて、医療の機能がパンクする可能性が出てきます。また、皆さまが集まることによって、待合室等でかえって感染拡大する可能性があります。すぐには受診せずに、保健所、厚生センター等に電話で相談することが大切です。

グラフ
図1 新型コロナウイルス対策の目的(基本的な考え方)

新型コロナウイルス感染症のための対策

新型コロナウイルス感染症の対策は、飛沫予防策と接触予防策を十分に行うことが必要とされています。咳(せき)、くしゃみ、つばなどの飛沫は約2mの範囲で飛ぶといわれています。換気が不十分な屋内において、互いに手を伸ばしたら届く距離で長時間過ごすときには、マスク着用などの十分な対策が必要です。また、つり革や手すり、ドアノブ、スイッチなど、飛沫がついた場所を触った後は必ず手洗いが必要になります。

これまで国内で感染が明らかになった人のうちの8割の方は、他人に感染させていないことが分かりました。このことは、「図2」の上段のように1人の感染者から次々と感染が拡大しているのではなく、下段のように飛び火した場所で小規模な患者の集団(クラスター)が発生していると考えられます。このクラスターの抑制が最も重要です。「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」を避けることが重要です。

グラフ
図2 クラスター発生の考え方

以上をまとめて、個人レベルで一緒にできる対策を以下に紹介します。

  • 自分を守る:手指消毒と咳エチケット(マスク)
  • 病院を守る:すぐに受診しない・まず電話相談、院内感染させない
  • 地域を守る:高齢者と持病を持つ方たちを守る

ひとりひとりの心がけが地域と社会を守ることにつながります。ご協力よろしくお願いします。

更新:2024.10.21