膝のスポーツ傷害に対する治療-軟骨・半月板・靭帯損傷

富山大学附属病院

整形外科

富山県富山市杉谷

膝のスポーツ傷害には、どのようなものがありますか?

膝関節(ひざかんせつ)は、太ももの骨(大腿骨(だいたいこつ))とすねの骨(脛骨(けいこつ))、そして膝の前の骨(膝蓋骨(しつがいこつ))で構成されています。骨の間には、クッションの役割を果たしている軟骨(なんこつ)や半月板(はんげつばん)があり、骨をつなぎ合わせている靭帯(じんたい)が膝関節を安定に保っています(図)。膝関節は骨同士が直接かみ合っているわけではないため、骨だけでは非常に不安定な関節で、けがによって軟骨や半月板、靭帯は損傷を受けやすく、スポーツ傷害の中でも頻度(ひんど)の高い部位となっています。

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図 膝は骨とその間のクッションである軟骨と半月板、骨をつなぐ靭帯で構成されています

軟骨損傷に対する治療法は?

軟骨損傷は、初期段階では太ももの筋肉を鍛えるなどの保存療法で痛みを和らげることができます。しかし、軟骨はいったん損傷されるとそのままでは再生しないので、膝の痛みや腫(は)れが続いて手術が必要な場合があります。主な手術方法は次の3つです。

  • 関節鏡(関節用の内視鏡)を用いて、軟骨の土台の骨髄(こつずい)に小さな孔をあけ、軟骨に似た組織の再生を促す方法(骨髄刺激法)。
  • 膝関節内の荷重がかからない部分から、軟骨をその土台の骨ごと円柱状に採取し、軟骨欠損部に移植する方法(骨軟骨柱移植(こつなんこつちゅういしょく)、写真1)。
  • 最近可能になった治療法として、関節内の軟骨をあらかじめ少量採取し、約1か月かけて培養した軟骨(写真2)を欠損部に移植する方法(自家培養軟骨移植(じかばいようなんこついしょく))。この方法は、県内では最初に当院で行い、軟骨損傷治療の新たな選択肢となっています。
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写真1 軟骨欠損部(左)に骨軟骨柱を移植し、術後約1年で軟骨面が修復したところです(右)
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写真2 採取した少量の軟骨(矢印)から培養軟骨(右)を作成し、軟骨欠損部に移植します

これらの治療により、関節軟骨面が修復され、スポーツに復帰することが可能です。

半月板損傷はどうやって治療しますか?

半月板が損傷されると、亀裂部が引っかかって膝の曲げ伸ばしがしにくくなったり、痛みが生じます。多くの場合、筋肉訓練などの保存療法で痛みを和らげることができますが、症状が続く場合は手術を行うことがあります。

手術は関節鏡で行い、半月板損傷の形態によっては、引っかかる部分をやむを得ず切除することがありますが、半月板のクッション作用をできるだけ残すために縫合術を行います。この場合、損傷部位によっては血流が悪く治りにくいので、自分の血液から作成した血餅(けっぺい)を亀裂部に充てんして縫合し、治癒率を上げる工夫を行っています(写真3)。

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写真3 膝関節鏡の画像。半月損傷部に血餅を充てんし、半月板縫合を行っているところです

靭帯損傷の治療法とスポーツ復帰までの期間は?

靭帯損傷のうち最も多くみられるのが、内側側副靭帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)です。治療は装具などの保存療法で6~8週で治ることがほとんどです。

次に多いのが前十字靭帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)です。前十字靭帯は断裂したら完治しないことが多く、膝関節の不安定性が残り、スポーツ活動に支障をきたします。また、不安定性のために軟骨や半月板を傷め変形性関節症につながる可能性があるため、適切な治療が求められます。スポーツを希望されるなど、活動性が高い方には手術を勧めています。

手術は関節鏡を用いて行います。膝周囲の腱(けん)を採取して関節内に移植し、前十字靭帯を再建します(写真4)。もとの靭帯にできるだけ近い形に再建することで、関節の動きや安定性は手術前に回復し、スポーツも可能になります。ただし、移植した靭帯がしっかり生着するまでには時間がかかるため、適切にリハビリテーションを行うことが大切であり、手術後8か月から1年でのスポーツ復帰を目指します。

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写真4 断裂した前十字靭帯(左)に対し、関節鏡で靭帯再建術を行います(右)

1.膝は、スポーツでけがをすることが多い関節です。

2.まずは、筋力訓練などの保存療法を根気よく続けることが大切です。

3.痛みが続く場合や、損傷程度によっては、手術が有効な手段となります。手術は体への負担が少ない関節鏡を用いて行います。

4.当院では、さまざまな膝のスポーツ傷害に先端医療で対応しています。

更新:2022.03.08