胃がんの治療 ピロリ除菌による予防から進行胃がんまで

福井大学医学部附属病院

消化器内科 消化器外科

福井県吉田郡永平寺町

胃がんとピロリ菌の除菌治療――ここが特色

ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)は胃内に生息する細菌です。国内では約3600万人がピロリ菌に感染している推定されています。ピロリ菌の感染は胃潰瘍(いかいよう)、十二指腸潰瘍や慢性胃炎の原因となります。基本的に乳幼児期に経口的に感染しますが、昔と比べて衛生環境が改善しているために、感染率は若年者では低く、年齢とともに上昇し、高齢者ほど高い傾向にあります。

ピロリ菌の感染者は1年間で0.4%の方が胃がんになるとされていますが、胃がんの実に99%以上はピロリ菌関連であることが明らかになっています。そのため、ピロリ菌の除菌治療は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍だけではなく胃がんに対する予防効果も認められています。

ピロリ菌の診断方法は血液検査、便検査、吐く息を使った呼気テスト、内視鏡検査時の生検組織を用いた検査などのさまざまなものがあります。

ピロリ菌の感染が確認された患者さんには7日間の内服治療を行います。保険診療では2回の除菌治療が承認されており、通常の治療によるピロリ菌除菌成功率は95%以上です。消化器内科では以前よりピロリ菌の研究と治療を積極的に行っており、残念ながら2回の除菌治療を行っても除菌不成功であった患者さんに対して、ピロリ専門外来(木曜午後、月2回、予約制)を開設しています。専門外来では、不成功であった原因を解析し、異なった種類の薬剤を使用した新しい除菌治療を臨床研究として行い、良好な成績を上げています。ピロリ菌除菌について困っている患者さんは、ぜひご相談ください。

早期胃がんの治療

早期胃がんの治療には、消化器内科による内視鏡を用いた治療と消化器外科が担当する腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)があります。がんの組織型、がんの大きさや深さ(深達度)、リンパ節転移の有無を内視鏡検査やCT検査などのさまざまな画像検査によって詳細に評価し、治療方針を決定します。判断が難しい場合は内科と外科で十分に検討を行って、患者さんにとって最善の治療をお勧めしています。

消化器内科では内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)(ESD)を積極的に施行しており、全国の他の先進施設と遜色のない治療成績が得られています。85歳以上の超高齢の患者さんやほかの医療機関で内視鏡による治療が困難と判断された患者さんに対しても、十分に検討した上で治療をしています。また、胃がんだけでなく、食道がんや治療が難しいとされる十二指腸がんに関しても、ESDによる治療を行っています(写真1、2)。

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写真1 ESDによる治療
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写真2 ESDの内視鏡写真と切除標本

小さな傷の手術

消化器外科では腹腔鏡による小さな傷の手術を施行しています。おへそを含めた5~6か所の1cm程度の傷で治療を行っています。当科は新しい食事の通り道の再建もすべて腹腔鏡手術だけで行い、切除したがんは、おへその傷を大きくして体外へ取り出すので、ほかには大きな傷は残りません。そのため手術後も早く歩行が始められ、退院ができます。

進行胃がんに対する治療

進行胃がんでは、少しでも再発を防ぐために、がんが大きな患者さんやリンパ節の転移が目立つ患者さんには手術前の抗がん剤治療をお勧めしています。2か月くらい抗がん剤の投与をしますが、がんが小さくなった場合は従来のそのまま手術を行うケースよりも再発が少なくなっています。当院では術前の抗がん剤治療として、標準治療である2つの抗がん剤による治療のほかに、さらに強力な3つの抗がん剤を使った治療もしています(写真3)。効果は標準治療より高いですが副作用も強いので、患者さんの状態をみて個々に判断しています。なお、この手術前の抗がん剤治療はすべての患者さんが対象となるわけではありません。

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写真3 術前化学療法の効果(原発巣とリンパ節転移が縮小)

手術後は定期的な通院をしながら、再発の有無や体調管理を行います。通常は元のかかりつけ医のところに通院しながら、節目ごとに当院へ来ていただきます。特殊な抗がん治療が必要になった場合や、臨床試験に参加いただいている患者さんは当院に通院していただきます。

腹膜播種を起こしている胃がんの治療

腹膜播種(ふくまくはしゅ)は、がん細胞がお腹(なか)の中に広がっている状態であり、胃がんが治らない大きな原因です。

消化器外科では、腹腔鏡検査で胃の外側にがんが露出している患者さんや、腹膜播種を認める患者さんには、腹腔内(お腹の中)にカテーテルと呼ばれる特殊な管と皮下に腹腔ポートと呼ばれる小さな注入部を埋め込み、腹腔内へ薬剤を投与することができるようにします。この腹腔ポートを使って、繰り返し抗がん剤を腹腔内へ投与する治療(腹腔内投与)を通常の抗がん剤治療(全身投与)に組み合わせることにより、従来の抗がん剤治療では良くならなかった患者さんも治療効果が得られています(写真4)。この治療は、まだ研究段階の治療であるため、臨床研究や先進医療として行っています。全国でも行っている施設は限られており、福井県では当院だけです。治療を受けるには条件がありますのでお問い合わせください。

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写真4 腹腔内投与による播種の変化

これまでに他院では治癒の見込みがないと診断されても、根治に至った患者さんもいます。また、再発が判明してから、あるいは治療開始後に進行していたことが判明して受診する患者さんもいますが、完治のためには、進行胃がんと言われた早期の段階からの受診をぜひお願いします。

更新:2023.09.10