鼓膜再生療法を用いた日帰り手術 内視鏡による低侵襲手術

福井大学医学部附属病院

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

福井県吉田郡永平寺町

穿孔性中耳炎とは

中耳の感染に伴う耳漏の反復や鼓膜の損傷などによって鼓膜に永久的な穿孔を生じている状態です。難聴の原因となる以外にも、耳漏、耳鳴、ふらつきなどの原因となり、放置していると鼓膜が正常である耳に比べて耳の遠くなりかたが早い(内耳の音を感知するする細胞の衰えが早い)ということがわかっています。鼓膜の半分くらいの大きさまでの穿孔で、音を伝える耳小骨や中耳腔に炎症病変がない場合には近年保険適応となった鼓膜再生療法を積極的におこなっています。これは、鼓膜の穿孔の周りを切り取ったあとにヒト塩基性線維芽細胞増殖因子という鼓膜再生を促す薬をしみこませたスポンジ(リティンパ)をつめておくという新しい治療です。従来までの治療では鼓膜の穿孔を閉鎖する組織を耳後部皮下から採取する必要がありましたが、鼓膜再生療法ではその必要がないため外来で局所麻酔下に日帰りで治療を行うことができます(写真1,2)。

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写真1 鼓膜穿孔
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写真2 鼓膜穿孔閉鎖

鼓膜の大部分が穿孔となっている場合や耳小骨周囲など鼓膜の奥に炎症性病変を伴っている場合には、内視鏡をもちいて外耳道経由で穿孔を閉鎖する手術を取り入れています。従来の鼓膜形成術に比べて、創部が1/3程度に小さくなるとともに外耳道皮膚や鼓膜を剥離する必要がなくなりますので、手術の侵襲も小さなものとなります。外耳道にガーゼを長期に入れておく必要もなくなりますので、比較的術後早期から聞こえが良くなり入院期間も3-4日間程度です。

真珠腫性中耳炎の治療

真珠腫性中耳炎とは、鼓膜や音を伝える耳小骨などの骨、周囲組織を破壊する真珠腫という塊りができる中耳炎です。放置すると徐々に大きくなり、内耳や顔面神経、脳へも影響が及ぶことがあるため、できるだけ早期に手術を行うことが望ましいです。手術をおこなってもその再発率の高さから、一般的には手術を2回に分けて、行うことが多いです。段階手術が多く行われています。進行した真珠腫や小児の場合では段階手術とせざるを得ない場合もありますが、近年当科では内視鏡を併用して手術を行うことにより、可能な限り一期的手術を行っています。すなわち真珠腫の確実な摘出を行った後に再発の起こりにくい中耳の再建、音を内耳へと伝える伝音連鎖(耳小骨)の再建を一度の手術で行うものです。早期の真珠腫や先天性真珠腫(うまれつきの真珠腫)などの鼓膜の奥にのみ限局している真珠腫では内視鏡だけで耳の穴から手術をおこなうことで、より低侵襲で再発率の少ない治療を行うことができるようになってきています。

更新:2023.09.11