胸腔鏡下手術で術後疼痛を減らす!肺がん手術とは?

愛知医科大学病院

呼吸器外科

愛知県長久手市岩作雁又

肺がんの手術ってどんな手術?

肺は、肋骨(ろっこつ)や肋間筋(ろっかんきん)で作られる胸の壁(胸壁)で守られています。胸の中心部(肺門部)で心臓や主気管支とつながっていますが、そのほとんどの部分は、ほかの部分とつながっていません。そのため呼吸の際に、胸壁の動きに合わせて、自由に広がることができます。胸壁の内側を胸腔(きょうくう)と呼び、肺はこの胸腔にあります。

胸腔には肺と肺の周りに、わずか10mlほどの胸水と呼ばれる水が存在しています。この胸腔は陰圧になっており、肺はしぼむことなく、いつも目いっぱい広がり、胸壁の動きと連動して、伸びたり縮んだりしています。

肺は左右1対ありますが、右の肺は上・中・下の3つに分かれており、左は上・下の2つに分かれています。その一つひとつを肺葉と呼びます。例えば右肺の上を右肺上葉と呼びます。

肺がんの手術では通常、肺がんができた肺葉をすべて取り除きます(図1)。つまり、右肺上葉にがんができれば右肺上葉を切除します。また、がんが転移しやすいリンパ節が気管支の走行に沿って存在しており、そのリンパ節も手術の際には切除します。肺は心臓と太い動脈や静脈でつながり、空気が流れる気管とも気管支でつながっています。肺葉切除を行うためには、このつながっている血管や気管支を見つけ出して切らなければなりません。

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図1 肺がん手術:肺がん手術ではがんができた肺葉を切除します

従来は、肉眼で肺の血管や気管支を見つけ出し、それらを1本ずつ糸で結んだり、縫ったりしてから切離していたので大きな皮膚切開が必要でした(図2)。現在では、胸腔鏡と呼ばれる内視鏡の使用により、小さな皮膚切開で手術ができるようになってきました。

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図2 手術創の変遷:胸腔鏡手術によって手術の傷がずいぶん小さくなりました

胸腔鏡を使った肺がんの手術って、どんな手術?

胸腔鏡とは胸腔に挿入する内視鏡です。先に述べたように胸腔は陰圧になっています。手術の際に胸に傷ができて胸腔と外界がつながると空気が胸腔に入り、肺は速やかにしぼみます。肺がしぼむことで空間ができ内視鏡を入れることができます。

内視鏡はテレビモニターとつながっていて、私たちはこのテレビモニターを見ながら手術をします。実際の目で見るよりも、拡大して細かく胸腔内を観察することもできるので、通常は3か所程度の小さな孔(あな)のような傷をつくることによって肺葉切除が可能になってきました(図2)。また、まるで自分の手で縫合切離するように、自動で血管や気管支を縫合してくれる道具も開発され、便利なだけではなく、安全性も担保されています(写真)。

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写真 胸腔鏡手術:胸腔鏡では胸の中の様子が鮮明に見られます

胸腔鏡を使った肺がんの手術って痛くないの?

残念ながら痛くないとはいえません。胸部の手術では胸腔に到達するために、肋骨に沿って肋骨と肋骨の隙間(すきま)(肋間)を切開します。肋間はわずか1~2cmしかなく、この隙間に肋間動脈、肋間静脈、肋間神経が走行しています。この肋間神経や肋骨表面の骨膜が障害されると強い痛みが起こります。肋間の切開を少なくすることで、肋間神経や肋骨骨膜の損傷を軽減し、さらに胸壁を取り囲む筋肉群の切開を最小限にすることで、痛みの軽減を目指しています。

手術後には、胸腔ドレーンという管(くだ)が胸壁を貫いて胸に留置されます。このドレーンが留置されている期間は痛みが強いので、早期にドレーンが抜去可能になるように、肺切離面からの空気漏れや、リンパ節切除部分のリンパ液漏れが減少するように、さまざまな工夫をしています。

従来の手術を受けた患者さんに比べると、胸腔鏡手術を受けた患者さんの術後の疼痛(とうつう)は、ずいぶん軽減されていると実感しています。手術機械の進歩は著しく、今後も術後の疼痛は改善されていくと思います。

肺がん以外の病気に対する胸腔鏡手術

肺がん以外の病気の手術にも胸腔鏡を使用します。転移性肺腫瘍(しゅよう)、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍など多くの腫瘍の手術に胸腔鏡が活躍しています。そのほか、気胸(ききょう)(肺に穴があいて肺の周りに空気が漏れてしまう病気)では、胸腔鏡で空気漏れの場所を確認し、穴を修復します。手汗の多い人に交感神経節の枝を切離することで手汗を減らす手術もあります。重症筋無力症という自己免疫疾患では、胸腺を胸腔鏡手術で切除して症状の改善をみます。

更新:2024.01.25