子宮悪性腫瘍(子宮頸がん・子宮体がん)に対する腹腔鏡による最新治療

愛知医科大学病院

産科・婦人科

愛知県長久手市岩作雁又

婦人科疾患に対する腹腔鏡手術の導入

腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)は、開腹手術に比べ術後の痛みが少なく、早期の社会復帰が可能なことから、現在最も注目されている手術法の1つです。

婦人科領域では、1990年代から子宮筋腫(きんしゅ)や卵巣腫瘍(しゅよう)など、良性疾患に対する腹腔鏡手術が行われるようになり、これまでに急速な進歩を遂げました。

一方、子宮頸(けい)がん・子宮体がんなど、婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術は、外科・泌尿器科領域に比べると導入が遅れていました。しかし、2014年に子宮体がんに対する腹腔鏡手術が保険診療になり、さらに子宮頸がんに対する「腹腔鏡下広汎(こうはん)子宮全摘術」が先進医療に認定されたことから、子宮悪性腫瘍を腹腔鏡手術で治療することができるようになりました。

子宮体がんに対する腹腔鏡手術

子宮悪性腫瘍は、腫瘍の発生部位により、子宮頸がんと子宮体がんに分類されます(図1)。子宮体がんは、子宮内腔(ないくう)を覆う子宮内膜に発生するがんであり、別名を子宮内膜がんと呼ばれ、40歳以上に多い病気です。子宮体がんが診断されると、MRI、CTなどの画像診断により、がんの大きさと子宮筋層内への浸潤(しんじゅん)の深さ、リンパ節への転移の有無を評価し、がんの広がり(進行期)を評価します(表1)。

イラスト
図1 子宮悪性腫瘍(子宮頸がん・子宮体がん)の発生部位
病期 腫瘍の広がり
Ⅰ期 がんが子宮体部にとどまっているもの
ⅠA期 浸潤が子宮筋層1/2以内にとどまる
ⅠB期 浸潤が子宮筋層1/2を超えるもの
Ⅱ期 がんが子宮頸部筋層に広がったもの
Ⅲ期 がんが骨盤内に浸潤
ⅢA期 子宮の漿膜や卵巣に浸潤
ⅢB期 膣や子宮の結合組織に広がったもの
ⅢC1期 骨盤リンパ節転移があるもの
ⅢC2期 傍大動脈リンパ節転移があるもの
Ⅳ期 がんが骨盤を超えて別の部位へ広がる、遠隔転移のあるもの
ⅣA期 膀胱や直腸に浸潤
ⅣB期 遠隔転移(腹腔内、肝臓、肺など)
表1 子宮体がんの進行期分類

子宮体がんに対する腹腔鏡手術「腹腔鏡下子宮体がん根治手術」は、がんが子宮内にとどまっている進行期ⅠA期までが対象になり、当科は、全国で5番目の実施施設として厚生労働省より認可を受け、実績を積んできました。そして、2014年から本手術に健康保険が適用され、高額療養費制度を利用することで、自己負担額が実質10万円程度(一般所得の場合)に軽減されました。子宮体がんの治療について悩まれている方、詳しい入院期間や手術費用、合併症、手術の適応に関する質問は、外来担当医にお気軽におたずねください。

子宮頸がんに対する腹腔鏡手術(先進医療)

これまで子宮頸がんに対する外科的治療は、早期の子宮頸がんであっても、開腹術が行われていました。しかし、欧米や韓国では、子宮頸がんに対する腹腔鏡手術がすでに実施されており、安全性と有効性の高い治療法として普及しています。そして今回、子宮頸がんに対する腹腔鏡手術(腹腔鏡下広汎子宮全摘術)が2014年12月より先進医療に認定され、国内で手術を受けることができるようになりました。先進医療の手術費用は患者さんの自己負担になるため、保険診療が適用される腹腔鏡下子宮体がん根治手術と比べて高額になります。しかし、術前検査や入院費については健康保険が適用され、自費診療に比べて患者さんの自己負担が軽減されます。

子宮頸がんに対する手術は、開腹術で行うと臍(へそ)上から恥骨(ちこつ)上まで約20cm、またはそれ以上の皮膚切開が必要ですが、腹腔鏡で行うと、5~12mmの数か所の小切開のみで、開腹術と同じ手術内容が行えます。このため、腹腔鏡による子宮体がん手術と同様に、術後の痛みが大幅に軽減され、入院期間の短縮、早期の社会復帰が可能になります。さらに、腹腔鏡を用いることで、より細かい手術が可能になり、出血量の軽減も期待されています。腹腔鏡下広汎子宮全摘術の適応は、進行期ⅠA2期、ⅠB1期、またはⅡA1期までの早期子宮頸がんが対象になります(表2)。子宮頸がんの治療についてお悩みの方、また手術費用については、お気軽にお尋ねください。

病期 腫瘍の広がり
Ⅰ期 がんが子宮体部にとどまっているもの
ⅠA1期 がんの広がりが7mm 以下で深さ3mm 以下のもの
ⅠA2期 がんの広がりが7mm 以下で深さ5mm 以下のもの
ⅠB1期 がんの大きさが4cm 以内のもの
ⅠB2期 がんの大きさが4cm を超えるもの
Ⅱ期 がんが子宮頸部を超えたもの
ⅡA 期 膣の上2/3までの浸潤
 ⅡA1期 がんの大きさが4cm 以内のもの
 ⅡA2期 がんの大きさが4cm を超えるもの
ⅡB 期 子宮頸部の周囲組織へ浸潤
Ⅲ期 がんが骨盤内に浸潤
ⅢA期 膣の下1/3までの浸潤
ⅢB期 子宮頸部の周囲組織の浸潤が骨盤壁におよぶ
Ⅳ期 がんが骨盤を超えて別の部位へ広がる、遠隔転移のあるもの
ⅣA期 膀胱や直腸に浸潤
ⅣB期 遠隔転移(腹腔内、肝臓、肺など)
表2 子宮頸がんの進行期分類

小さな切開創で行う腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術

腹腔鏡下子宮体がん根治手術、腹腔鏡下広汎子宮全摘術は、臍の上、臍と恥骨の間、両側下腹部の4か所に小さい切開を行い、トロカール(腹腔鏡を挿入する短い筒状の器具)を挿入します(図2、写真)。そして、このトロカールから、カメラや鉗子(かんし)、電気メスを腹腔内へ挿入して子宮周囲の靱帯(じんたい)と腟管を切開し、腟から子宮を摘出し、さらに骨盤内のリンパ節を腹腔鏡下に切除します。予期せぬ出血や癒着(ゆちゃく)により腹腔鏡手術が困難と考えた場合は、開腹術に変更となることがあります。

イラスト
図2 子宮悪性腫瘍手術で行われる腹部切開創(合併症等により、切開創の長さや位置が異なる場合があります)
写真
写真 実際のトロカール配置

入院期間は、開腹手術で行うと約2週間必要ですが、腹腔鏡手術では、10日前後に短縮されます。

更新:2024.01.25