日常に支障をきたす更年期障害

浜松医科大学医学部附属病院

産科婦人科

静岡県浜松市東区半田山

更年期障害とは?

月経が来なくなる状態を閉経といい、この時期には卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下が起こっています。この閉経前後5年の合計10年間を更年期と呼び、この時期に生じる肩こり、倦怠感(けんたいかん)、のぼせ、イライラなどの症状が更年期症状です。これらの症状のうち、日常生活に支障をきたす場合を、更年期障害といいます。

エストロゲン低下で説明できる症状とできない症状とが混在し、更年期障害の症状や期間には個人差があります。

イラスト
典型的な更年期障害女性

更年期障害の症状

更年期障害の症状は、約40~80もあげられるほど多く、不定愁訴(ふていしゅうそ)(症状はあるのに、原因がわからない状態)ともいわれます。具体的には、血管運動神経症状(ほてり・のぼせといったホットフラッシュ、発汗など)、不眠、頭痛、認知機能低下、不安、抑うつ、その他の症状(肩こり、倦怠感、息切れ、腰痛、筋肉痛、関節痛、めまいなど)があります。

図
図1 更年期障害

特徴的な血管運動神経症状は、通常2年以内に自然軽快することが多いですが、10年以上持続する場合もあります。ここにあげた更年期の症状は、9割以上の女性が経験するといわれています。しかしその症状の程度は個人差があり、日常生活に支障をきたすものを更年期障害といいます。

更年期とは閉経前後5年の合計10年間と述べましたが、日本人の平均閉経年齢は約50歳ですので、45歳~55歳の10年間が最も典型的な更年期の期間といえます。しかしながら、閉経年齢が平均より早いことも当然ありますので、45歳以前でもここにあげたような症状で生活に支障がある方は、積極的に近くの産婦人科クリニックを受診することをお勧めします。

図
図2 症状に影響する3つの要因

更年期障害と早発卵巣機能不全の診断

●更年期障害

更年期障害に標準的な診断基準はなく、更年期を迎えた女性のライフステージの状態として、症状と矛盾しないかどうかで診断されます。ホルモン値を測定することで閉経状態にあるかは判断できますが、閉経状態のホルモン値でないからといって更年期障害であることは否定できません。

更年期は、子どもの巣立ちや介護の開始など、新たなライフイベントの時期と重なります。うつ病などの精神疾患や甲状腺(こうじょうせん)疾患など、ほかの疾患を除外することが、更年期障害の診断には不可欠です。そのため、問診や検査を要し、診断には時間がかかることがよくあります。

産婦人科クリニックを受診する際には、日常生活に支障をきたしている症状は具体的に何があり、その程度はどの程度かをメモしていくとよいでしょう。また、更年期に関連すると思われる症状以外にライフイベント等での悩みごとも整理しておいて、診察する医師に伝えるとよいでしょう。

●早発卵巣機能不全

早発卵巣機能不全とは、早発閉経といわれていた病気で、40歳未満で閉経状態となることをいいます。もしこのように、40歳未満やそれに近い年齢で月経が終わってしまったようだという方がいたら、産婦人科クリニックを受診し、そのうえで問題がなければ、ホルモン補充療法を開始することをお勧めします。45歳未満での閉経は、その後の心血管疾患の罹患率(りかんりつ)(*1)を上昇させることが日本人を対象とした研究で明らかにされています。

*1 罹患率/病気になる人の割合

更年期障害の治療

更年期症状の内容によって治療法を検討します。

●血管運動神経症状

血管運動神経症状には、エストロゲン製剤の貼付や内服を行うホルモン補充療法が効果的です。約9割の方に有効であったとの研究結果が多いです。

エストロゲン製剤は子宮体がんを発症させるリスクが高いので、エストロゲン製剤による子宮体がん発症抑制効果のあるプロゲステロン製剤も一緒に使用する必要があります。

また、ホルモン補充療法は乳がん発症リスクを上昇させるのではないかとの不安がある方もいると思いますが、世界中の積み重ねられた臨床データからは、ホルモン補充療法による乳がん発症リスクの上昇幅は非常に小さく、ホルモン補充療法を断念させるのには不十分な上昇幅であることがわかっています。さらに、乳がん発症リスクをより少なくできる薬を選ぶこともできるようになっています。

●精神症状

カウンセリング、漢方薬や抗うつ薬の内服を行います。どちらも産科婦人科外来で処方可能ですが、精神科での専門的な診察が必要と判断する場合は、精神科や心療内科受診を勧めることもあります。

●さまざまな身体症状がある場合

漢方薬やカウンセリング、対症療法(*2)を行うことが多いです。また、エストロゲン様作用のあるエクオールサプリメント内服や、運動療法も効果があるといわれています。

*2 対症療法/病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起きている症状を和らげたり、なくしたりする方法

更新:2023.10.26