消化管がんの早期診断と内視鏡治療

浜松医科大学医学部附属病院

消化器内科

静岡県浜松市東区半田山

消化管の内視鏡治療について

消化管内視鏡機器と治療技術の進歩はめざましいものがあり、日本が世界をリードする領域です。全検査件数および検査種類の増加に加えて、高齢社会における低侵襲(ていしんしゅう)(体に負担の少ない)治療の需要が高まっており、内視鏡治療が増加しています。

食道がん、胃がん、大腸がんなどの消化管腫瘍(しょうかかんしゅよう)は、粘膜に留まる早期がんを適切に診断し、転移の可能性がない病変は、内視鏡による切除で治療することが可能です。当院は、2022年1月より内視鏡センターを新設して先端機器の充実をはかり、がんの早期診断と内視鏡治療を強化しています。

最新の消化器内視鏡検査

当院の内視鏡センターでは、毎日、上部内視鏡検査、下部内視鏡検査をはじめ、多数の内視鏡検査が行われています。消化管腫瘍の場合、拡大内視鏡観察や画像強調観察といった最新の方法を用いて、5㎜以下の早期がんを発見し、精密に診断することが可能です。2022年度からは、大腸検査において新たに人工知能(AI)による診断補助システムを導入しています。

これまで検査が難しかった小腸の病気は、飲むだけで全小腸が観察できるカプセル内視鏡や、長い小腸をたぐり寄せて深部まで挿入し、観察と治療ができるバルーン内視鏡といった新たな内視鏡での診断・治療ができます。

早期がんに対する内視鏡治療

消化管の早期がんに対する内視鏡治療は、診断能力と技術的な向上から、年々増加しています。内視鏡的粘膜層下剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくじりゅつ)(ESD/endoscopicsubmucosal dissection)は、早期の段階で診断できたがんを、内視鏡を用いて切除します。外科的胃切除に代わり日本で開発された、画期的な治療手技です。

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図1 早期がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

「図1」のように、マーキング、局注、周囲切開、剥離の4つのステップで消化管の筋肉の層を残して、内視鏡先端から出した電気メスで粘膜を切除します。治療による体への負担は少なく、臓器温存が可能な低侵襲治療となりますので、80歳以上の高齢者でも多くの患者さんが治療を受けています。治療は入院で行い、鎮静剤と鎮痛剤により、眠っている間に治療が行われますので、内視鏡挿入の苦痛はありません。

治療適応は、主としてリンパ節転移の可能性がないと考えられる、粘膜内にとどまる早期がんです。食道がん、胃がん、大腸がんで保険診療となっています。これらの治療には高度な技術が必要となりますが、最新の医療機器を用いて安全かつ精度の高い治療を提供できるように、日々取り組んでいます。

1㎝以下の比較的小さな良性の大腸ポリープ(大腸腺腫(だいちょうせんしゅ))は、スネアという輪の形をした処置具を用いた内視鏡的ポリペクトミーという方法で、大腸内視鏡検査のときに同時に切除しています。平坦な形の病変の場合には内視鏡粘膜切除術(EMR/endoscopicmucosal resection)という方法が用いられます(図2)。これにより将来の発がんのリスクを減らすことが可能であり、年間500人以上の患者さんが日帰りの検査で治療を受けています。

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図2 大腸ポリープに対する内視鏡的ポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除術

光感受性物質を用いた食道がんに対する光線力学的治療(PDT)

当院は、光感受性物質(ひかりかんじゅせいぶっしつ)とレーザーを用いた先端医療である、光線力学的治療(こうせんりきがくてきちりょう)(PDT/photodynamic therapy)が行える、全国でも数少ない病院です。現在この治療は、化学放射線治療・放射線治療後の残存、または再発の食道がんに保険診療で行えます。

治療は「図3」のように、治療前に光感受性物質であるタラポルフィリンナトリウムを血管内に注射し、4~6時間後に上部消化管内視鏡で病変部にレーザー光を照射します。光感受性物質はがん細胞に取り込まれやすいことから、レーザー光によりがん細胞が反応して壊死(えし)します。

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図3 食道がんの光線力学的治療(PDT)

約2週間、光線過敏症の防止のために直射日光を避けて、少し暗い部屋で過ごしてもらいますが、安全性が高く食道が温存できることから、新しい治療選択肢として注目されています。県外の病院からも紹介を受けて治療を行っています。

更新:2023.10.26