頭頸部がんの治療最前線

浜松医科大学医学部附属病院

耳鼻咽喉科

静岡県浜松市東区半田山

頭頸部がんとは?

頭頸部(とうけいぶ)とは、脳や眼を除いた首から上の領域全般を指します(図1)。がん全体の約5%の発生頻度、年間約3万人の患者数で、近年は増加傾向です。飲酒・喫煙だけでなく、一部のウイルスががんの発生にかかわっています。「顔貌」や「食べる」「話す」「呼吸する」など生活に欠かせない機能、「味わう」「嗅ぐ」「聴く」など生活を豊かにする感覚器に影響を及ぼします。

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図1 頭頸部がんの発生部位

がんの根治(こんち)(完全に治すこと。治癒)をめざしつつも、患者さんの価値観やQOL(生活の質)を十分に配慮した一人ひとりの治療方針を選択していくことが大切です。

頭頸部がんの種類と症状

口腔がん(舌(ぜつ)がんを含む)、咽頭(いんとう)がん、喉頭(こうとう)がん、鼻腔(びくう)・副鼻腔(ふくびくう)がん、聴器(ちょうき)がん、唾液腺(だえきせん)がん、甲状腺(こうじょうせん)がんなどがあります。治らない口内炎、飲み込みづらさ、食事の際の痛み、声がかすれる、首のしこりなどの症状が現れます。

頭頸部がんの検査・診断

診察は、問診・視診・触診が基本となります。のどや鼻の中はファイバースコープ(体内を観察するための内視鏡)で観察します。細胞や組織を一部採取して、顕微鏡を用いた病理検査で、確定診断がなされます。

さらに、超音波検査、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像診断法)、PET-CTなどの画像検査を組み合わせて、がんの広がりや転移の有無を調べます。

また、異なる臓器にそれぞれ別個に発生したがん(重複がん・広域発がん)になる方が15%程度にみられるので、食道・胃のカメラ検査をする必要があります。お酒で顔が赤くなる体質の方は特に注意が必要です。

気になる症状があれば早めに耳鼻咽喉科を受診し、専門医の診察を受けることをお勧めします。

頭頸部がんに対するさまざまな治療

治療法には、手術・放射線療法・抗がん剤(薬物療法)の主に3つがあります。根治を目的としたものは、手術または放射線治療になります。抗がん剤の主な目的は、延命または放射線治療の効果を高めることです。

進行がんに対しては、拡大手術や、抗がん剤を併用した放射線治療で根治をめざします。広い範囲で切除した欠損部に対しては、お腹(なか)や大腿(だいたい)(太ももの部分)など体のほかの部分から、皮膚や筋肉、骨、腸管などの組織を移植する手術(遊離皮弁再建手術(ゆうりひべんさいけんしゅじゅつ))で、形態や機能を保つようにめざします。

当科では、積極的に最新の知見や機器を導入して、診断や治療にあたっています。口腔がんの再建手術では、最新のデジタルテクノロジーを駆使して、精密で正確な切除と再建治療を行っています(図2)。

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図2 デジタルテクノロジーを用いた下顎骨の再建手術(手術後のX 線写真)

上顎洞(じょうがくどう)がんに対しては、骨や眼球を切除するような広い範囲の手術をする代わりに、カテーテル(*)を用いて動脈に直接抗がん剤を流し込む動注化学療法(どうちゅうかがくりょうほう)を併用した放射線治療(RADPLAT(ラドプラット))を積極的に行い、高い効果を報告しています。

* カテーテル/プラスチック製の細くて長い管、細長いストローのようなもの

頭蓋底(頭の骨の底)に発生した腫瘍に対しては、ナビゲーションシステムを用いて体に負担が少ない内視鏡的切除術を行っています。

薬物療法の幅は広がっており、免疫療法も保険適用になっています。また、ガイドラインなどで推奨される標準治療をやりきった患者さんには、がん固有の遺伝子異常に基づいた個別化医療に結びつけるがん遺伝子パネル検査を、他院からの紹介も含めて行っています。

治療後に局所の再発をきたして手術ができないような患者さんには、頭頸部アルミノックス治療(光免疫療法)(図3)を導入しています。

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図3 頭頸部アルミノックス治療(光免疫療法)のイメージ

特定のがん細胞に結合する、光に反応する薬を投与した後に、近赤外線レーザーを当ててがん細胞を破壊させる方法(写真)です。世界に先駆けて日本で承認された、新しい治療選択肢です。

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写真 頭頸部アルミノックス治療(光免疫療法)のレーザー照射

甲状腺がんの多くは進行が遅いとされており、手術が治療の第一選択となります。再発予防や転移に対しては、ヨウ素が甲状腺組織に集まる性質を応用した放射性ヨウ素内用療法を行います。それでも急速に進行する場合は分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)を用います。さまざまな治療選択肢を適切なタイミングで行えるよう、放射線治療科と密に連携しています。

更新:2023.10.26