健康寿命を延ばすために―身体的フレイルとロコモ
浜松医科大学医学部附属病院
整形外科
静岡県浜松市東区半田山
フレイルとは?
フレイルとは、高齢期(主に75歳以上)に生理的予備能力(筋力や活力など)が低下することでストレスからの回復力が低下し、日常生活を送ることが困難となり、要介護状態、ひいては死亡などに進んでいきやすい状態のことを指します。
筋力の低下により動作の俊敏性が失われ、転倒しやすくなるような身体的問題だけではなく、認知症やうつ状態などの精神・心理的問題、独居(どっきょ)や経済的な困窮(こんきゅう)など、社会的問題を含む概念とされています。
フレイルとロコモティブシンドローム
高齢化が進む日本において、2019年現在の平均寿命は、男性81.41年、女性87.45年となっており、今後も伸びていくと予想されています。
一方で、日常生活に制限のない期間を表す健康寿命は、男性72.68年、女性75.38年であり、その差は男性で約9年、女性で約12年です(図1)。高齢期をいかに長く健康で過ごすことができるかが大切になります。
フレイルは、身体的、心理的、社会的なさまざまなことが原因となり、日常生活を元気に送ることができない状態とされています。当科では、そのうち身体的な問題がある患者さんを診察しています。
身体的な問題とは、運動器と呼ばれる骨・関節・筋肉・神経などの障害によって、立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態のことです。こうした状態を、ロコモティブシンドローム(ロコモ)と呼んでいます。
ロコモは、フレイルよりも早い時期から現れて、徐々に進行します。体の動かしにくさを自覚するようになったときが、身体的フレイルの状態とされます。ロコモ、つまり身体的フレイルが進行すると、将来介護を必要とする可能性が高くなります。
そのほか、要介護になった最も多い原因には、転倒や骨折、関節痛、腰痛(ようつう)といった運動器の障害などがあります。
簡単にできるロコモの確認テスト
ロコモかどうかを診断するためのテストを、ロコモ度テストと呼びます。3つのテストで判定します。
- ①立ち上がりテスト
- 片足もしくは両足で、どれくらいの高さの台から立ち上がれるかを測ります(図2)。
- ②2ステップテスト
- できるだけ大股で歩いた2歩の距離を測ります(図3)。
- ③ロコモ25質問票
- 運動器に関する25の質問に答えるアンケートです。
いずれも自分で行うことができる比較的簡単なテストです。これらのテストの結果により、ロコモでない状態、ロコモ度1~3を判定できます。ロコモ度3が身体的フレイルに相当します。
ロコモの原因と進行予防のためには
ロコモ(=身体的フレイル)は、運動器の病気、運動能力の低下、関節痛、腰痛などの痛みなどが合わさって起こります。運動器の病気には、骨折や骨粗(こつそ)しょう症(しょう)のほかに、関節の中の軟骨がすり減り関節が変形する病気(変形性関節症)、背骨の間にある椎間板(ついかんばん)がすり減り背骨が変形する病気(変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう))、背骨の後ろを通る神経の通り道が狭くなる病気(脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう))などがあります。これらの病気によって関節痛、腰痛のみならず、しびれや関節の動き・柔軟性の低下が起こり、立った姿勢や歩行のバランスが悪くなり、転倒しやすくなると考えられています。
予防のためには、まず運動器の健康を保つことが重要です。運動器は普段の生活の中である程度の負荷をかけることで維持されます。適度な運動を行うことは大変重要です。
運動器の病気に対する治療法は、その程度によって変わります。薬の内服やリハビリテーションなどの保存療法と、手術療法に大きく分けられます。保存療法は病院が担っています。
当科では、頸部(けいぶ)や腰の神経に対する手術、側弯症(そくわんしょう)の曲がりを矯正する手術、痛みのある関節に対する人工関節手術などを行っています(図4)。
これらの治療を適切に行うことで、ロコモから回復することも可能です。当科ではこのように、健康寿命を延ばすことができるよう、お手伝いをしています。
更新:2023.10.26