インフォームド・コンセントってなに?
浜松医科大学医学部附属病院
循環器内科
静岡県浜松市東区半田山
インフォームド・コンセントとは?
インフォームド・コンセント(informed consent)とは、「説明と同意」と簡略的に訳されることもありますが、医療者側から患者さんや家族に診療行為についての十分な説明を行ったうえで、患者さん自身が主体的に考え、診療行為に対する合意を形成し、同意書に署名をすることです。
一昔前には、ある治療法を医師が提示して「任せてください」といい、患者さんは「お任せします」といって治療が進んでいくこともありましたが、これはインフォームド・コンセントの考えに反することになります。インフォームド・コンセントをもとにして、医療者と患者さんや家族が協同して、治療に取り組んでいきます。
なぜインフォームド・コンセントが必要なの?
当たり前の話ですが、手術をする(他人の皮膚をメスで切り、内臓を切ったりつないだりする)、心臓カテーテル検査をする(血管に針で穴をあけて、カテーテルという細い管を使って検査する)、胃カメラをする(先端にカメラのついたチューブを口や鼻から胃に挿入する)など、一般的に医療行為と呼ばれていることを、医師免許を持たない人が行えば傷害罪に問われる犯罪行為となります。医師免許という資格を持ち、患者さんの治療目的で行うことにより、これらの行為は医療行為という言葉で正当化されています。
患者さんの体に与える負担や影響の大きい検査・治療のことを、難しい言葉でいうと「侵襲的(しんしゅうてき)」な検査・治療といいます。それに対して、X線や心電図の検査を行うことや、酸素を吸ってもらうような治療は、患者さんにそれほど大きな負担はかかりませんので「非侵襲的」な検査・治療ということになります。
インフォームド・コンセントは、侵襲的な検査や治療に対して行われるものになります。とある医療ドラマでは有名女優が外科医を演じて、「私、失敗しないので」が決め台詞となっていますが、残念ながら現実の医療現場では失敗がないということはありえません。
医療行為の難しいところは、100%の成功(この手術をすれば100%がんがなくなる、この治療をすれば困っている症状が完全に消失するなど)はありえないことです。一定の確率でがんが取り切れないこともありえますし、症状が残ったり変わらなかったりすることもありえます。さらに0%のリスクということもありえません。
よかれと思って行った侵襲的な検査や治療で、逆によくないことが起こってしまうことを合併症といいますが、合併症のない侵襲的な検査や治療は、ありえないといっても過言ではありません。合併症の一例としては、切ったところからの出血が止まらないことや、切ったところから細菌が侵入して感染してしまうことなどが挙げられます。
だからこそ、医療者側は侵襲的な検査や治療をする前に、そのメリットや成功率、合併症のリスクなどについて、十分な説明をする必要があり、患者さんはその説明を聞いて理解し、自身の意思で検査・治療を受けるかどうか決める必要があります。治療を受けることを納得して決めた証として、同意書に署名をします。
インフォームド・コンセントの実際
前提として、医療者側と患者さんの間には、病気に関する知識において量的な差がありますので、医療者側から患者さんやその家族に診療行為について十分な説明をする必要があります。
当院では、侵襲的な検査や治療に関しては、統一したフォーマットの説明文書を用意しています。説明文書の内容は以下になります。
- 病名、病状
- 何もしなかった場合に予想される経過
- 治療や検査の目的
- 治療や検査の内容
- 治療や検査の注意事項
- 治療や検査によって起こる合併症・偶発症
- ほかの方法について
これらを一つひとつ説明して、患者さんや家族に、治療の必要性やその有用性とリスクについて理解を促します。
また、セカンドオピニオンといって、患者さんが納得のいく治療法を選択することができるように、現在の病状や、治療の選択などについて、現在診療を受けている担当医とは別の違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることも可能です。
これらのプロセスを経て、患者さんはその治療を受けるのか、別の治療を受けるのか、それとも治療を行わないのかを自身で選びます。
選ぶにあたってわからない点や不安な点があれば、医療者側に質問し、それを解消するように努めてもらうのがよいと思います。最終的に選んだ結果を同意書に署名する形で、その意思を示します。
シェアード・ディシジョン・メイキングとは?
医療者側と患者さんで情報を共有・協同して治療方針を決めていくことを、シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making)といいます。
患者さんには、インフォームド・コンセントを伴う侵襲的な検査・治療だけではなく、すべての検査・治療において、それを行う、行わない、別の方法を行うなどの複数の選択肢があるため、患者さんが主体となって方針を決めていく必要があります。
シェアード・ディシジョン・メイキングでは、どの選択肢なら自分に合っているのか、医療者が情報提供や質問に答えることで患者さんの意思決定をサポートするので、最近重要視されるようになってきています。
例えば、高血圧を検診で指摘されて来院した場合では、高血圧を放置するとどうなってしまうのか(将来的な脳卒中(のうそっちゅう)や心筋梗塞(しんきんこうそく)などのリスクが増える)、現時点でどのような検査が必要なのか(血圧を調節するホルモンに異常がないかどうか採血を行う、高血圧により心臓肥大を生じてないかどうか心臓超音波検査を行うなど)、血圧を下げる方法(食事では減塩を心がける、血圧を下げる薬を内服する)について、医療者から十分な説明を受けます。
更新:2023.10.26