ループス腎炎、ANCA関連腎炎に対する世界標準の治療戦略

藤田医科大学病院

腎臓内科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

ループス腎炎、ANCA関連腎炎とは?

本来、体に侵入した細菌やウイルスなどの敵に攻撃をしかける免疫システムに異常が生じて、自分自身の体の一部を敵と間違え、攻撃してしまう自己免疫疾患の1つです。ループス腎炎やANCA関連腎炎では、尿をつくる臓器である腎臓が、自分自身の免疫によって攻撃にさらされてしまうのです。いずれも国の難病に指定されており、一定の重症度を満たせば国・自治体から医療費の助成が受けられます。

一般的な治療と予後(回復経過)

自分自身の体の一部に攻撃をしかける異常な免疫(自己免疫)を抑えるために、約半年間は寛解導入療法(かんかいどうにゅうりょうほう)と呼ばれる集中的な強い治療を行い、その後長い時間をかけ治療を強化する寛解維持療法に移行します。なかには命にかかわる重症の患者さんもいますが、年々治療による成績は向上し、多くの患者さんが治療を続けながらも、一見病気が治ったかのような寛解と呼ばれる状態に落ち着きます。

治療の中心になるのは、今も昔もステロイド薬と呼ばれる炎症を鎮める薬です。ただし、長期にわたり大量のステロイド薬を服用すると、易感染性(いかんせんせい)(病原体に対する抵抗力が落ちて感染症にかかりやすくなる)、骨粗(こつそ)しょう症(しょう)、糖尿病、動脈硬化症といった望ましくない作用(副作用)によって、生活の質が低下したり寿命が短くなったりします。

そのため当院では、病気の勢いをできるだけ早く抑えつつも、副作用を最小限に抑えるための世界標準の治療にいち早く取り組んでいます。加えて、医師が目指すべき診療の指針である「診療ガイドライン」の作成メンバーに加わり、日本の医療をリードしています。

世界標準の治療:ループス腎炎

私たちは患者さんの腎臓や命を守るだけではなく、何十年も先の生活の質を保ち、合併症を最小限にする治療に取り組んでいます(図1)。そのために高用量のステロイド薬だけに頼らず、寛解導入療法の早期からミコフェノレート酸モフェチル(MMF(エムエムエフ))という免疫を抑える薬(免疫抑制薬)を併用します。MMFは従来の免疫抑制薬と違い、発がん性や無月経・無精子症(子どもができにくくなる)の危険性が少なく、内服で治療できることも利点です。

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図1:ループス腎炎の最新治療

また、免疫抑制薬と同時にヒドロキシクロロキンという薬も服用していただきます。この薬はもともとマラリアという病原体に対する治療薬ですが、免疫を調整する作用があり、ループス腎炎にも効果があることが知られています。感染症を減らしたり、血栓症を予防するなど多面的な作用を有し、寿命を延ばす効果も期待されています。

寛解維持療法期に服用するステロイド薬は、病気の勢いのコントロールのために必要最小限とし、可能な場合には完全に中止を目指します。Bリンパ球という白血球に、間接的に作用し抗体の産生を抑える新薬であるベリムマブは、病気の勢いを抑え、再発予防やステロイド薬のさらなる減量が期待できることから積極的に併用しています。

世界標準の治療:ANCA関連腎炎

ANCA関連腎炎の治療の目的は腎臓の炎症を鎮め、低下した腎臓の働きを回復することです。しかし、時に腎炎だけではなく、肺からの出血を伴うなど重症例の場合は、救命を最優先し、患者さんの血液の一部と、健康な方からの献血で得られた血液の一部を入れ替える血漿(けっしょう)交換療法(図2)を行います。この治療は病気の原因物質であるANCAを除去し、不足している物質を補う治療法です。

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図2:血漿交換療法

寛解導入療法は高用量のステロイド薬だけに頼らず、シクロホスファミドの点滴治療か、リツキシマブの点滴治療のいずれかを選択します。シクロホスファミドは抗がん剤の一種で、ANCA関連腎炎の治療に関して最も実績が豊富な薬です。しかし、治療が長期に及ぶと発がん性が懸念されるため、半年を目途にアザチオプリンという免疫抑制薬の服用か、リツキシマブの点滴治療に移行します。リツキシマブはBリンパ球という白血球に直接作用して、抗体の産生を抑える薬です。寛解導入療法では週1回のペースで計4回点滴治療し、以降の寛解維持療法は半年ごとに1回点滴治療します。

ANCA関連腎炎は比較的高齢な方に発病するので、寛解維持療法期に服用するステロイド薬は、病気の勢いのコントロールのために必要最小限とし、治療に伴う感染症に厳重な注意を払いながら診療しています(図3)。

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図3:ANCA関連腎炎の最新治療

長期予後を見据えた補助療法の徹底

ループス腎炎やANCA関連腎炎が長く経過すると、腎臓の働きが低下することや治療の副作用によって、心臓病や血管病、骨粗しょう症といった合併症に苦労することがあります。そのため私たちは腎炎だけにとらわれるのではなく、患者さんの将来を見据え、早い段階からコレステロールの異常や高血圧に対する治療、肺炎の予防、骨を丈夫にする治療などの補助療法を徹底して行っています(図1、図3)。

侵襲を伴わない診断法の確立

現状では腎生検(じんせいけん)(局所麻酔下に腎臓の組織を細長い針で採取して顕微鏡で観察する検査)がループス腎炎やANCA関連腎炎の診断に不可欠です。藤田医科大学病院は、腎臓の炎症をきたす細胞から複数の物質が尿に漏れ出すこと、その量とループス腎炎やANCA関連腎炎の重症度が関連することを発見し、新聞にも掲載されました。患者さんに負担のない検査として、世界の腎臓病診療の場で実用化することを目指しています。

更新:2024.10.07