悪性脳腫瘍に対する集中的治療

藤田医科大学病院

脳神経外科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

脳腫瘍とは

脳腫瘍(のうしゅよう)とは、頭蓋内(ずがいない)に発生するあらゆる新生物のことをいいます。大きく分けて、脳自体から発生するもの、頭蓋内の脳以外の組織(下垂体(かすいたい)や硬膜など)から発生するもの、頭蓋外の臓器にできたものが飛んでくるものに分けられます。前2者を原発性脳腫瘍、後者を転移性脳腫瘍と呼びます。

転移性脳腫瘍を除くと、年間およそ人口1万人当たり1~2人程度が脳腫瘍になり、中高年に多く発症します。脳腫瘍は種類が非常に多く、細かく分けると100種類以上あります。原発性脳腫瘍の約4分の1が脳以外から発生する髄膜種(ずいまくしゅ)で、約4分の1が脳内から発生する神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれるものです。

悪性脳腫瘍

悪性脳腫瘍の代表的なものとして、神経膠腫や悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍などがあります。

ここでは、そのうち最も頻度(ひんど)の高い神経膠腫について述べます。

神経膠腫は脳の内部から発生する腫瘍の代表的なものです。1種類の腫瘍でなく、いくつかの種類のものを総称して神経膠腫と呼んでおり、悪性度に応じてグレードⅠ(良性)からグレードⅣ(悪性)に分類されています。

神経膠腫の治療(手術療法)

治療の第1の手段として、手術療法があります。手術の目的の1つは、病変を摘出して正確な診断をつけることです。もう1つの目的は、摘出により腫瘍の体積を減らすことです。神経膠腫に対しては、手術で腫瘍をたくさんとればとるほど予後がよくなるといわれています。しかしながら、手術で大きな後遺症を残すことは望ましくありません。そのため、大きな後遺症を残さない程度に可能な限り手術で摘出することをまず目標とします。腫瘍の存在する場所によっては、重い障害を残す可能性が高く十分な摘出が望めないときもあります。その際には、手術目的の1つである診断をつけるために、少しだけ腫瘍をとる生検術という方法を選択することもあります。また、それすら危険な場合には画像による診断を行い、その後の化学療法や放射線療法の治療を行う場合もあります。より画像診断を正確にするため、通常のCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(核磁気共鳴画像法)だけでなく、腫瘍内の代謝物を測定できるMRS(磁気共鳴分光法)なども用いています。

手術の際にはさまざまな手法を合わせることで、安全にかつ摘出量を増やす努力を行います。例えば、ナビゲーションシステムでは、手術前の画像と手術中の位置を照らし合わせて、手術の際に位置を確認します(図1)。また、手術の前に5ーアミノレブリン酸を内服していただき、手術中に特殊な波長の光を当てると腫瘍が赤く光ることを用いて腫瘍の存在部位、残存の判断に利用します(図2)。機能の損傷を避けるために、運動誘発電位、感覚誘発電位などを用いて運動や感覚の線維をモニターし、その損傷を防ぎます。このような手段を用いて可能な限り摘出するのですが、脳にしみ込むような腫瘍であるため画像上よりも大きく広がっていることが多く、手術で完全に摘出することは非常に困難です。そのため手術後に放射線療法や化学療法を行うことが多いです。どのタイプの化学療法を行うか、どの程度の線量の放射線照射を行うかは、手術により摘出した腫瘍を調べて決めます。

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図1:ナビゲーションシステムの画面。手術前の画像のどの部位に相当するのか分かります
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図2:腫瘍にとりこまれた5-アミノレブリン酸の代謝物が赤く光ります

近年、脳腫瘍の分類が変わり、神経膠腫の正確な診断には、顕微鏡で判断する形態的な評価だけでなく腫瘍の遺伝子の情報が必要になりました。当科では、藤田医科大学病理診断科、慶應義塾大学脳神経外科と協力して腫瘍の正確な診断を行い、また治療効果の予測となるような因子を調べています(図3)。

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図3:遺伝子解析の例。CGTがCATに変化しているのが分かります

神経膠腫の治療(放射線療法や化学療法など)

手術後に放射線療法が必要になった場合には、当院の放射線腫瘍科にて行われます。

化学療法としては、腫瘍の種類に応じて、カルムスチン脳内留置用剤、テモゾロミド、ベバシズマブやPAV療法などが行われます。カルムスチン脳内留置用剤とは、カルムスチンという薬剤がしみ込んだ1円玉ぐらいの大きさのシートを手術の際に腫瘍をとった腔に置いてきます(図4)。このシートからカルムスチンがゆっくり放出されます。テモゾロミドは内服あるいは点滴の薬で放射線療法と一緒に用いたり、その後外来でも継続して使用したりします。腫瘍が育つには腫瘍自身に栄養がいかなければなりません。VEGF(血管内皮細胞増殖因子(けっかんないひさいぼうぞうしょくいんし))という物質を放出することで腫瘍は血管を形成し、血液を通じて栄養を取り込みます。ベバシズマブはこのVEGFを阻害することで、腫瘍の血管形成をおさえます。PAV療法は、プロカルバジン、ニムスチン、ビンクリスチンといった3種類の薬を点滴と内服で行います。また、小児の神経膠腫に関しては小児科と協力しながら治療を行います。

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図4:手術中のカルムスチン脳内留置用剤を腫瘍摘出腔に留置

ほかにも、腫瘍によっては、頭にシートを貼って、交流電場を流すという治療も行います。

こうした治療以外にも、当院は日本臨床腫瘍研究グループや日本小児がん研究グループという組織に属しており、多施設共同臨床研究として新規の治療法を行うという選択もあります。ただし、これはすべての方が当てはまるわけではありません。また、他の臨床試験や治験にも積極的に参加しています。

さらには、がん遺伝子パネル検査が当院でも施行可能となっており、今後が期待されます。

このように、悪性脳腫瘍に対して脳神経外科だけでなく、学内学外のさまざまな部署と協力して治療にあたっています。

更新:2024.10.09