子宮がん治療の最前線-低侵襲手術と妊孕性温存治療

藤田医科大学病院

産科・婦人科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

子宮がんとは

子宮に発生するがん(悪性腫瘍((あくせいしゅよう))には、子宮体部に発生する子宮体がんと子宮頸部(けいぶ)に発生する子宮頸がんがあります。子宮体がんは女性ホルモンであるエストロゲンの過剰な刺激により発生するものが多いとされ、50歳代に発症のピークがあります。近年は生活習慣の欧米化に伴いその数は増加しています。

子宮頸がんはほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)感染により発生するとされ、30~40歳代の比較的若い年代に発症のピークがあります。子宮頸がんは前がん病変を経て発生し、前がん病変の段階で検診により発見されることも多いですが、子宮頸がんにまで進展すると妊孕性(妊娠できる可能性)の温存が難しくなります。

子宮体がんに対する低侵襲手術

子宮体がんの治療は手術療法が基本であり、子宮の摘出と両側の卵巣・卵管(付属器)の摘出が標準術式です。病変の進行度や悪性度により、リンパ節の摘出を追加します。従来は開腹手術が一般的に行われていましたが、近年、内視鏡を用いた低侵襲(ていしんしゅう)(体に負担の少ない)手術ががんの根治性(こんちせい)に関して、従来の開腹手術と比較して同等であるとするデータが多く示されてきました。

そこで当院では、早期の子宮体がんに対して積極的に腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)や手術用ロボット(da Vinciサージカルシステム)を用いたロボット支援下手術を行っています(写真1)。悪性腫瘍や内視鏡手術の専門医師を複数配置しており、安全にこれらの先進的医療を提供することが可能です。IA期(がんの浸潤が子宮筋層の半分以内の進展)に相当する場合、保険診療でこれらの手術を受けることが可能です。

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写真1:ロボット支援下手術の実際の様子

腹部の臍(へそ)付近や下腹部に1cm前後の創(きず)を4~6か所作成します。二酸化炭素のガスを腹腔内に送り、操作スペースを作ります(気腹法(きふくほう))。その後、腹腔内に挿入した内視鏡カメラを通してモニター画面に映し出された鮮明な画像を見ながら、専用の手術器具を用いて手術を行います。カメラは拡大機能があるため、肉眼では捉えにくかった微細な血管や神経も明瞭な視野で確認することができます(写真2)。手術器具は繊細な作業を可能とする特殊な構造をしており、さまざまな操作を高い精度で安全に行うことができます。

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写真2:内視鏡カメラを通した術野所見

これらの手術の利点として、創部(そうぶ)が小さいことにより手術後の痛みが軽減されること、整容上のメリットがあること、開腹手術に比べ創部の離開(りかい)や腸閉塞(ちょうへいそく)などの手術合併症のリスクを減らせること、入院期間と社会復帰までの期間が短縮できること、などがあげられます。

子宮頸がんに対する低侵襲手術

子宮頸がんに対しても早期の場合には手術療法が行われますが、子宮の摘出方法としては子宮周囲の組織を広く摘出し、加えて骨盤内のリンパ節を合わせて摘出する、広汎(こうはん)子宮全摘出術が標準術式とされています。

子宮頸がんに対しても子宮体がん同様に、腹腔鏡や手術用支援ロボットを用いた低侵襲手術が試みられてきましたが、最近の報告ではこれらの手術は従来の開腹手術に比較し、治療成績が悪いことが示されています。子宮頸がんに対しての低侵襲手術は、当院ではその適応を慎重に検討した上で実施の判断をしています。

子宮頸がんに対する妊孕性温存治療

子宮頸がんは若い世代に多い病気ですが、子宮の全摘出を伴う根治治療により妊孕性が失われてしまいます。そのため当院では、妊孕性温存の希望がある患者さんに対して、病変のある子宮頸部の一部分のみを摘出し、残った子宮を腟に改めてつなぎ直す、子宮頸部摘出術を行っています(図)。これには開腹手術で行う場合と、腹腔鏡を併用して行う場合があります。この手術はがんの根治性と妊孕性温存のバランスをとる必要から、病変の広がりや悪性度、子宮のサイズなど、適応には厳しい基準がありますので個別にご相談ください。

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図:広汎性子宮頸部摘出術の摘出範囲

この手術により子宮の温存が可能であったとしても、再発の有無を含めた長期間のフォローアップが必要です。また、体外受精など生殖医療技術を使わないと妊娠しにくい可能性や、妊娠した場合の早産のリスクが高くなる可能性があります。当院では各分野の専門医師がいますので、総合的なサポートの提供が可能です。

更新:2024.10.09