炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)の診断と治療
山梨大学医学部附属病院
消化器内科
山梨県中央市下河東

炎症性腸疾患とは?
消化管(食べ物の通りみち)に炎症を起こす、慢性あるいは寛解(かんかい)・再燃性(良くなったり、悪くなったり)の病気の総称で、一般に潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とクローン病の2つの病気のことを意味します。いずれの病気も増えていて、厚生労働省の特定疾患に指定されています。潰瘍性大腸炎は主に大腸に、クローン病は口から肛門まで消化管のあらゆる部位に炎症が生じる病気で、どちらも腹痛、血便や下痢などの症状が生じます。

若い年齢から発症することが多く、再燃と寛解を繰り返しながら慢性に経過する病気で、生活の質が低下することが多いため、発症から早い段階で診断し、治療を開始することが重要です。近年、新しい薬が次々と発売されており、治療の選択肢が増えています。
潰瘍性大腸炎、クローン病の症状
主な症状としては、腹痛、下痢および血便などがあります(図1)。

潰瘍性大腸炎のほうが血便の頻度は高く、持続してみられたり、繰り返しみられることが多いです。潰瘍性大腸炎では直腸(肛門近く)から口側に連続して炎症が広がるため、腹痛はお臍(へそ)の下から左側あたりでみられることが多く、クローン病では回盲部(かいもうぶ)(小腸と大腸の境目あたり)で炎症が生じることが多いため、腹痛はお腹(なか)の右下あたりでみられることが多いです。また、クローン病ではお腹の症状が乏しいこともあり、発熱や体重減少をきっかけに診断されることもあります。肛門病変がみられることも、クローン病の特徴です。
いずれの病気も消化管だけでなく、関節炎や皮膚病変など、消化管以外の病変を認めることもあります。
潰瘍性大腸炎、クローン病の検査・診断
血液検査および糞便検査
貧血、炎症反応、栄養状態などを評価し、重症度や治療効果判定を行います。近年、LRG(Leucine-rich glycoprotein)という血液中タンパク質や、便中カルプロテクチンという便中タンパク質が、病気の疾患活動性を反映することがわかってきており、これらの検査も併用しながら、病気のモニタリングを行っています。
内視鏡検査
内視鏡は診断に必要な検査で、大腸内視鏡や上部消化管内視鏡を使用して行います(図2)。クローン病では小腸に炎症があることも多いため、カプセル内視鏡やバルーン小腸内視鏡という、特殊な内視鏡を用いて検査を行うことがあります(写真)。それぞれの病気に特徴的な所見があり、画像の評価と、生検(患部の一部を切り取って、顕微鏡などで調べる検査)による病理学的評価で診断します。また、治療効果判定を行うことにも有用です。


超音波検査、X線造影検査、CT検査およびMRI検査
病変の範囲や、消化管外の情報を得るのに有用な検査です。
超音波検査は体への負担が少なく、外来でも簡便に検査することができます。X線造影検査は、クローン病の小腸の病変を評価する際に有用です。CT検査やMRI検査は、撮像範囲の消化管および消化管外病変を評価するのに有用です。
CT検査はアレルギーや腎機能などに問題なければ、造影剤を使用しながら撮影することで、またMRI検査は腸管洗浄液を服用しながら撮影するMRエンテログラフィーを行うことで、より詳細な情報を得ることができます。
潰瘍性大腸炎、クローン病の治療
内科治療として、内服や注射による薬物療法や栄養療法、血球成分除去療法(炎症を起こす血球成分を減らす治療)があります。また、潰瘍性大腸炎の難治例やクローン病で瘻孔(ろうこう)(腸管同士や腸管と皮膚などに穴があいてつながった状態)、狭窄(きょうさく)(腸管が狭くなること)、膿瘍(のうよう)(膿がたまること)を合併している例では、外科的治療を考慮します。
近年、潰瘍性大腸炎、クローン病に対する薬物療法の選択肢は増えています。現在薬物療法として、5-アミノサリチル酸、免疫調整薬、ステロイド、タクロリムス、生物学的製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、ベドリズマブ、ウステキヌマブ)やJAK阻害薬があり、患者さんそれぞれの病状や背景に合わせて、治療を行っていきます。
また、クローン病で小腸が狭窄した場合に、腹痛などの症状の改善や手術を回避することを目的として、定期的に小腸内視鏡検査を実施し、内視鏡的バルーン拡張術を行います。
更新:2024.04.26