病院での診断・病理診断編 ほとんどのがん患者さんが病理診断を受けています

四国がんセンター

がん予防・疫学研究部 病理科

愛媛県松山市南梅本町甲

「病理」「病理診断」ってなに?

病理というのは、「病気を理解する」という意味が込められた和製漢語です。私たち病理医は、1㎜の250分の1程度の薄さにスライスされた病変を顕微鏡で見て、この病気がなんであるかを診断することを仕事としています。皆さんは「見た目で判断してはいけない、本質を見なさい」と言われたことがあるかもしれませんが、顕微鏡の中の世界では、病気の本質が見た目、すなわち形態の変化に現れます。

今では画像検査や遺伝子検査など、多くの病気を知る方法があります。しかし最近までは、形態の変化を見ることが病気を理解する最も信頼の置ける、かつ唯一の手法でした。

形態的な変化で病気を研究することを「病理学」、診断することを「病理診断」といいます。がんの治療は、重大な影響を人体に及ぼすので、開始するにあたって「確実な証拠」が必要になります。今日でも、がんの確実な証拠は顕微鏡で直接見て行う病理診断です。

病理診断は、がん専門病院では診療の質を左右する最も重要なファクターです。当院に限らず、がん専門病院では、診療する病気の種類は一般総合病院ほど幅が広くありませんが、その分診療を担当するがんについての知識を深めやすい、経験を積みやすいという強みがあります。

当院では、詳細な病理学的検討を加えた上、ほとんどの症例に対して専門医のダブルチェックを行っています。全国的に見ても多い、病理専門医1人当たりのがん診断数に基づく経験で、がん診療を陰から支えています。

がんの存在診断から治療法の選定まで

がんの疑いがある場合、その疑わしい部分から臨床医が標本を採取します。病理診断は主に、その標本をロウのような物質に固め薄く切った後、染色して行う組織診断、細胞を直接検査用のガラスにのせて染色して行う細胞診断の2つからなります。

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図1 病理標本のできるまで

細胞診断は採取する検体が小さいので、患者さんの痛みや傷が小さく、組織診断は検体が大きいかわりに診断の信頼性が高いという特徴があります。組織診断をするために標本を採取することを生検といいます。

生検では、がんの有無と組織型(「がんってなに?」参照)を診断します。組織型は治療法を決める鍵になります。これからしばらく組織型の名前がたくさん出てきますが、名前にはこだわらず、組織型によってがん治療の対応が変わる例として読んでください。

例えば、胃を生検してがんが見つかった場合、その性状によって対応が違います(図2)。組織標本を見て、腺癌、それ以外のがん、神経内分泌細胞由来のカルチノイド、間葉系細胞由来の肉腫(にくしゅ)、リンパ球由来のリンパ腫などに分類します。前記の4つでは切除、リンパ腫では薬物療法や放射線治療が第一に考えられます。

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図2 病理医が診ている顕微鏡の中の世界/免疫染色(赤矢印)も加味されてさまざまな種類の腫瘍に分類され、それに応じた治療がなされます

腺がんの場合、悪性度が内視鏡粘膜切除を選択するか、胃壁ごと切るかに影響します。薬物療法の場合は、組織型によって、選ぶ薬が変わります。腺がんとカルチノイドには、それぞれ別の分子標的薬があります。小細胞がんであれば、通常の腺がんと違ったより強力な抗がん剤が選択されます。肉腫のうち、大部分を占める消化管間質腫瘍(しゅよう)では分子標的薬が選択されます。また、胃がんだと思われて生検しても、病理診断の結果、乳がんなど、別の臓器のがんであったと分かることもあります。これも病理診断でしか行えない大事な役割です。
コンパニオン診断は、特定の治療薬の効果予測のために行う特殊染色による診断です。分子標的薬などの標的となる分子の発現を調べたり、がんの悪性度を判定したりすることにより、治療選択の鍵となる情報を提供します。

また、手術中に短時間で行う診断を術中迅速診断といいます。これは「手術中に行う迅速検査」を参照ください。

予後予測や治療の効果判定など

手術で切除された臓器に対する病理診断も重要な仕事です。生検の診断が正確であったか、術前のがんの広がりの予測が正しかったかどうかも確かめます。手術検体の病理診断によって決められるがんの広がりは、術後病理ステージと呼ばれ、組織型やがんが取り切れているかの評価と合わせ、その後の治療方針の決定や予後予測に一番重要な情報となります。

また、抗がん剤治療後や治療中のがんの組織像を見ると、どれくらい効果があったのかを知ることができます。がん細胞が再び増生している像が見られると、その抗がん剤が効果を持たなくなったがんが再増生していると判断します。

病理外来の開始

病理医が自院で行った病理診断やセカンドオピニオンとして他院の病理診断を直接患者さんに説明することを「病理外来」といいます。病理診断について患者さんが直接説明を受けることで、自身のがんに対する理解度があがり、治療に前向きになれる効果があるとされています。日本ではさまざまな事情で広まっていませんが、そもそも病理診断について病理医から直接説明を受けることは、患者の当然の権利だという考えもあります。

また、セカンドオピニオンは通常治療方針に対するものですが、病理外来のセカンドオピニオンは、診断に関するセカンドオピニオンを受けられるという違いがあります。病理外来は現在中四国で4施設しか行っていませんが、当院では2019年度から開始する予定です。

更新:2024.01.25