大腸がんと闘う 一人ひとりの患者さんにあった治療戦略を目指して

四国がんセンター

消化器外科 消化器内科

愛媛県松山市南梅本町甲

体に負担の少ない腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)

大腸がんにおいて、「治す」ことを最も期待できる治療法は手術によるがんの完全切除(根治(こんち)切除)です。一方で、手術が患者さんにとって大きな負担となることも事実です。そこで、近年では患者さんの体に与える負担(侵襲(しんしゅう))を極力抑えることを目的とした、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が盛んに行われるようになりました。

従来は、お腹(なか)を15〜20cmほど切って開腹手術を行っていましたが、腹腔鏡手術では0・5〜1cmの皮膚切開で数か所にポート(筒)を挿入し、お腹を炭酸ガスで膨らませてカメラの映像を見ながら手術を行います。最終的に1つの傷(多くの場合はおへその傷)を4〜5cmに広げて腫瘍(しゅよう)を含む腸を取り出します。開腹手術も腹腔鏡手術も、腸を切除する範囲やリンパ節郭清(かくせい)の程度は同じですが、腹腔鏡手術は傷が小さいため、術後の痛みが少なく回復も早くなります。さらに術後合併症のリスクを減らすことができると考えられ、特に肺炎などの呼吸器合併症が少なくなるといわれています。

イラスト
図1 開腹手術と腹腔鏡手術の傷の違い(直腸・S状結腸の場合)
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写真 腹腔鏡手術

がんの大きさや広がりによっては、腹腔鏡よりも開腹手術が適している場合もあります。手術治療において大切なのは、がんをしっかり取り除くことと安全に手術を行うこと、そして患者さんに安心して治療を受けていただくことです。当院には、患者さんにとっても、治療を行いサポートする医療スタッフにとっても、大腸がんと闘うことに専念できる環境が整っています。私たちはどんな治療方法を選択するかについて、「患者さんと一緒に考える」時間を大切にし、患者さんと共に最適な手術方法を選択するようにしています。

究極の肛門温存手術(こうもんおんぞんしゅじゅつ)「ISR(アイ・エス・アール)」

「直腸がん」と診断されると、多くの方は「人工肛門になるのではないか」と心配されます。実際、肛門に近い直腸がんでは肛門ごとがんを取り除く手術(直腸切断術)を行い、永久人工肛門となるケースがあります。しかし近年では、手術手技や手術器械の進歩により、これまで永久人工肛門となっていたケースでも、本来の肛門を温存することが可能となってきました。特に「究極の肛門温存手術」といわれる括約筋間直腸切除術(かつやくきんかんちょくちょうせつじょじゅつ)(ISR)は、画期的な手術方法といえます。この手術では、二重になっている肛門を閉じる筋肉(肛門括約筋)のうち、内側の筋肉だけを腫瘍と一緒に切除します。外側の筋肉は残るため、肛門の機能を温存することができます。同時に一時的な人工肛門を作りますが、3〜6か月後に閉鎖する手術を行います。

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図2 括約筋間直腸切除術(ISR)

ISRの問題点は、本来の直腸がなくなることに加え、肛門の機能が低下することによって生じる頻便(ひんべん)と便失禁です。程度がひどいと、いつ便意を催すか分からないため、せっかく肛門を温存したのに、手術前にはできていたことができなくなってしまうこともあります。この手術はまだ新しく難易度も高いため、経験の豊富な病院で手術を受けることをお勧めします。

肛門を温存することが、すべての患者さんにとって最善とは限りません。がんの状態はもちろん、患者さんの仕事や趣味などの生活スタイル、価値観なども考慮して最適な術式を選択する必要があります。当院では、がんを取り除くことに加えて患者さんのQOL(キュー・オー・エル)(Quality of Life(クオリティ オブ ライフ)/生活の質)を保つことも重視しつつ、ISRを積極的に行っています。

集学的治療

もし、「転移が大きくて切除できない」と言われた場合でも、切除できるようになるかもしれません。最近では、内視鏡治療、手術、抗がん剤治療、放射線治療などを組み合わせて治療することが増えてきました。このように、多くの治療法やケアの方法を組み合わせて行うことを集学的治療といいます。それぞれの専門家が連携しながら、がん治療を進めていくという考え方、取り組み方のことです。

特に、大腸がんに対する抗がん剤治療の進歩は目覚ましく、がん組織の遺伝子検査を行って、大腸がんの状態や患者さんの体調にあった抗がん剤を選択することで、がんを小さくする効果やがんの進行を抑えて長生きする効果に、ますます期待が持てるようになりました。しかし、抗がん剤だけでがんを完全に治すことは困難です。

したがって、例えば、大腸がんで肝臓の転移が大きくて切除できない場合でも、抗がん剤治療で肝臓の転移が小さくなったら手術をする、ということがあり得ます。ほかにも、内視鏡治療後の取り残しに対して抗がん剤治療や放射線治療をしたり、手術後の再発予防のために抗がん剤治療をしたりすることもあります。さらに、手術後に再発してしまった場合でも、抗がん剤治療をしてから再び手術をする、ということも考えられます。

当院には抗がん剤治療の専門医など、それぞれの領域に治療の専門家がいます。あらゆる手段を尽くして大腸がんを治すことや、患者さんが長生きすることを目指して診療にあたっています。

更新:2024.01.25