形成外科 チームで行う床ずれ対策

中部ろうさい病院

形成外科

愛知県名古屋市港区港明

脊髄損傷患者さんに対する床ずれ対策

当院においての他院にない特徴的な床ずれ対策といえばこれです。

脊髄損傷(せきずいそんしょう)によって下半身が不自由となり、車いす生活を余儀なくされた患者さんが、リハビリテーション科や泌尿器科を目的として連日多くの方が受診します。そのため、車いすにより床ずれとなる患者さんも多くみられます。

当初は、床ずれの治療のみを行っていましたが、動く量の多い車いす患者さんは手術で床ずれを閉鎖しても、すぐにまた再発してしまうことがありました(図1)。そこで現在は、生活環境の改善や患者さん自身の行動を変えることなど、再発予防に重点を置いて取り組んでいます。

フローチャート
図1 以前の治療方針

他院から、なかなか治らない床ずれの患者さんを手術目的に紹介された場合でも、通常はすぐに閉鎖手術の適応とすることはあまりありません。まずは、なぜ治りにくいかを突き止めるために、形成外科医だけではなく、外来看護師や皮膚排泄ケア認定看護師などにより、その患者さんの日常生活動作や仕事および家庭での生活環境などを聞いて、情報を蓄積して共有します。その後、ひとまず改善できそうな指導などを行います。2〜3週間後の再診時に再び床ずれの状態を評価し、さらに改善点などがあれば検討し、また指導するということを繰り返します。

初めは手術で床ずれ閉鎖を熱望していた患者さんも、普段の生活を送りながら仕事もできるようになると、そのまま保存療法での治療を受け入れる方も多くなり、外来通院を続けながら治る方も多くみられます。また、通院を続けながら除圧動作などをしっかり行えた患者さんは、床ずれの再発率も低くなる傾向があります(図2)。

フローチャート
図2 現在の治療方針

保存療法で治癒しない患者さんを対象に、外来で形成外科医・外来看護師・皮膚排泄ケア認定看護師による褥瘡(じょくそう)(床ずれ)カンファランス(検討会)を毎月行っています。外来の短い時間では、なかなか有効な指導ができないことがあります。しかし、多くの医療者で意見交換をすることによって、違うアプローチができる場合もあり、1人では気づかなかった指導ができるようになることもあります。

若くて動く量の多い脊髄損傷患者さんが、今後の長い人生において床ずれで悩むことが少しでもなくなるように、その特性を理解して個々に見合った指導を行っていきたいと思います。

なお、下半身麻痺(まひ)になる原因として、次の2つがあげられます。

  • けがによる場合(交通事故や労働中の転落などによる脊髄の骨折など)
  • 病気による場合(大動脈解離や術後の予期せぬ麻痺、生まれつきの麻痺など)

どちらかというと、けがによる場合の方が回復期のリハビリなどを主治医から積極的に勧められることが多く、逆に病気による場合は、主治医は病気の治療そのものに重きを置くことが多いため、回復期のリハビリが後回しになる傾向があります。

また、生まれつきの麻痺などでは、幼少時には家族の手厚い介助により生活も成り立つため問題にならなくても、本人が成人して一人暮らしを行うようになって初めて床ずれが現れることもあります。そこで、現在の床ずれの状態のみを見るのではなく、過去の病歴や受診歴、リハビリ歴などを把握した上での生活指導・環境整備が大切となります。

下半身麻痺の方で、病院で治療中にもかかわらず、なかなか治らない床ずれ治療に悩んでいる方は、一度、専門医に相談することをお勧めします。治療後も再発しないような方法を考えることが重要です。

床ずれ(褥瘡)対策チームとは

前述の脊髄損傷患者さんも含め、一般の入院患者さんの床ずれに対しても、形成外科医師・皮膚排泄ケア認定看護師・管理栄養士・薬剤師・理学療法士からなるチームで、その名の通り、院内の床ずれに対する予防・ケア・治療を担っています。

現在、多くの病院で緩和ケアチーム・栄養サポートチーム・認知症チームなど、さまざまなチーム医療が活躍していますが、その中でも褥瘡(床ずれ)対策チームは先駆けとなるチームであり、当院でも最も古くから活動しています(写真)。

写真
写真 褥瘡対策チーム

1998年に日本褥瘡学会が設立される前までは、床ずれ対策として系統立った予防法や治療法が確立されておらず、皮膚科医師や形成外科医師、場合によっては看護師のみがそれぞれ独自に、軟膏(なんこう)処置や手術など床ずれの治療を手探りで行っていました。同学会が設立されたことで床ずれに対する治療は大きく変わり、皮膚ケアや予防対策および栄養管理といったチームによる治療・予防が有効であると広く認知されるようになりました。

今ではチーム医療が当たり前となり、ガイドラインも作成されています。一般の患者さんに対し、入院時にマットの選定から予防ケアまで、床ずれ予防対策が必ず行われるようになり、入院中に床ずれが悪化するようなことは少なくなりました。また退院するまで、全身状態に応じて適切な治療を行っています。

形成外科の特徴

形成外科の診療三本柱である外傷・腫瘍(しゅよう)・先天異常を中心に診療を行っています。その中でも当院の特徴は、脊髄損傷後の車いす患者さんの床ずれ治療です。再発予防に重点を置いて原因に応じ

また、耳鼻咽喉科や外科などと合同で頭頸部(とうけいぶ)や胸腹部のがん手術に伴う再建手術を積極的に行っています。眼瞼(がんけん)(まぶた)下垂(かすい)などの眼科形成治療も数多く手がけており、さらに完全予約制ではありますが、トレチノインによるシミ治療も行っています。

更新:2022.03.23