人には言えない女性泌尿器疾患(尿失禁、骨盤臓器脱)に対する経腟/腹腔鏡手術

平塚市民病院

泌尿器科

神奈川県平塚市南原

尿失禁に困っている方へ

「この頃、ちょっとしたことで尿が漏れる、私だけかしら。でも人に言えない」。いいえ、そんなことはありません。たくさんの女性が、尿失禁で悩んでいます。

「咳(せき)やくしゃみなど、お腹に力を入れたときにだけ漏れてしまう」。これは腹圧性(ふくあつせい)尿失禁といわれます。また、「急に尿がしたくなったと思ったら、漏れてしまう」。これは切迫性(せっぱくせい)尿失禁といわれます。腹圧性と切迫性の両方の要素を持ち合わせた、混合性尿失禁の方もいます。腹圧性尿失禁の方が切迫性尿失禁より多いですが、年齢が高くなるにつれて、切迫性尿失禁の頻度(ひんど)が多くなるとされます。

尿失禁以外は健康な女性における尿失禁罹患(りかん)率は10~46%、国内では約700万人の尿失禁罹患者がいると推定されており、男性の前立腺肥大症患者と同等の割合です。

腹圧性尿失禁の場合には、TOT手術(Trans Obturator Tapeの略で、恥骨の裏側から尿道の下を通した、メッシュ状のテープで尿道を支持する)と呼ばれる経腟的経閉鎖孔的(けいちつてきけいへいさこうてき)メッシュ留置術が、治療の切り札です(図1、2)。また、切迫性尿失禁の場合には、膀胱(ぼうこう)収縮を調整する薬物療法で対応可能とされます。

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図1 両側閉鎖孔にメッシュを通し、尿道後面にメッシュを敷き、メッシュの位置を確認している様子(Monarc TOT 手術手技ビデオより)
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図2 尿道後面にメッシュが通り、尿道を後面より支えている様子(Monarc TOT手術手技ビデオより)

骨盤臓器脱に困っている方へ

先日、お風呂に入ったときに、ふと股から何か出ていることに気が付きました。そういえば、この頃下腹部の下垂感(かすいかん)が取れない、尿の勢いが弱くなったなどと感じることはありませんか?これは、膣から膀胱、子宮、直腸などが下がってきて、外陰部からその一部が出てくることにより、下垂感、排尿困難などを呈する疾患で、骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)といわれます。過去に子宮を摘除した患者さんに膣断端が出てくる場合もあります。

当院では数年前までは、このような患者さんに経腟的に膣前壁(ちつぜんぺき)、後壁にメッシュを挿入するTVM手術(Tension-free-vaginal-meshの略で、子宮は摘出せずメッシュを腟壁に埋め込み、骨盤底を支える手術法)を施行していました。しかし、腹腔鏡下仙骨固定術(ふくくうきょうかせんこつこていじゅつ)(LSC手術)が上方向へのけん引力により優れることから、最近では腹部の手術歴のない患者さんに対しては、LSC手術を積極的に施行しています。

この手術は、4か所のポート(血管内に薬剤を注入するための医療機器)の創(きず)(1㎝程度)で完遂することができ、術後早期から排尿障害や下垂感が改善することから、患者さん満足度が非常に高い手法とされます(図3)。

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図3 腹腔鏡操作(A):LSC手術は、4か所のポートのみで手術を行う。開腹する必要はなく、術後の創は目立たない(B):LSC手術は、子宮もしくは子宮摘出部にメッシュを敷き、仙骨前面に固定することで、骨盤臓器脱を治療する

当院の役割

泌尿器科は、女性にとって特に受診しづらい科の1つとされてきました。しかしながら、男性と同様に、女性のニーズは決して少なくありません。

神奈川県には女性泌尿器科疾患を治療する医療機関が非常に少なく、当施設は、湘南地区における数少ない女性泌尿器科治療施設です。尿失禁に対するTOT手術、子宮脱、膀胱脱、直腸脱に対するLSC手術やTVM手術、間質性膀胱炎に対する水圧拡張術など、女性泌尿器領域のさまざまな手術を行っています。創はいずれも非常に小さく、美容的側面にも配慮しています。

男性の排尿障害に対するHoLEP手術(経尿道的レーザー前立腺腺腫核出術)と同様に、気楽にかかれる女性泌尿器科病院としての役割を果たしていく所存です。おやっと思ったら、気軽に受診してみてはいかがでしょうか。

参考文献
1)加藤久美子,近藤厚生,岡村菊夫,他:就労女性における尿失禁の実態調査,日泌尿会誌,77:1501-1504,1986
2)高井計弘,宮下厚,望月和子:女性尿失禁の実態調査,臨泌,41:393-396,1987
3)梅原次男,塚本泰司,熊本悦明:女性尿失禁の頻度と背景因子に関する研究―健康成人3020名のアンケート調査結果―,泌尿器外科,4:53-57,1991
4)愛知県:平成11年度愛知県排尿障害実態調査報告書,2000

更新:2022.08.08