がん死亡数トップ、肺がんの治療法

いわき市医療センター

呼吸器外科

福島県いわき市内郷御厩町久世原

肺って何してるの?

肺は呼吸を行い、体の中に酸素を取り込み、二酸化炭素を外に出すという重要な役割を担っています。胸に左右1つずつあり、右肺は上葉・中葉・下葉の3つに、左肺は上葉・下葉の2つに分かれています(図1)。口や鼻から吸った空気は気管を通って肺に行き、さらに肺の中で木の枝のように広がる気管支を経て、その終着点は肺胞となります。肺胞で酸素や二酸化炭素などの交換が行われます。

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図1 肺のしくみ

がんの中で1番こわい肺がん

2017年の人口動態統計による死亡データでは、男女合わせた死亡数が多い順に、1位肺がん、2位大腸がん、3位胃がんとなっています。日本人のがんによる死亡の中では肺がんがトップです。

肺がんとは、肺胞や気管支の細胞がなんらかの原因(タバコ、粉塵(ふんじん)、アスベストなど)によりがん化したものです。最近では特定の遺伝子(EGFR,ALKなど)の異常が関係していることが明らかになっています。がんは無秩序に増殖を続けて広がり、転移することが特徴で、特に早い段階からほかの臓器に転移しやすいのが肺がんの特徴です。発生元ではないほかの肺や骨、脳、副腎(ふくじん)などへの転移が多くみられます。

どうして肺がんになるの?

肺がんは喫煙との関連が非常に高いことが分かっています。タバコを吸う人は、吸わない人に比べて男性は4.4倍、女性は2.8倍ほどリスクが高くなるという研究データがあります。

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近くにいる人がタバコを吸って吐き出す煙(副流煙)を吸い込むことを受動喫煙といいます。この受動喫煙による肺がん発生リスクも報告されており、たとえ自分でタバコを吸わなくても、配偶者が日に20本以上の喫煙者だと、そうでない人に比べて2.2倍ほど肺がんになるリスクが高いことが示されています。

一方でタバコをまったく吸わなくても肺がんになることがあります。これは年齢を重ねることで遺伝子に傷が入りやすくなり、正常な細胞ががん化するためといわれています。

症状がなければ大丈夫?

肺がんは早期の場合、ほぼ症状がありません。病気の進行とともに咳(せき)や痰(たん)、痰に血が混ざる(血痰)、胸痛などの症状が現れます。肺がんが転移した先での症状が突然出現することもあります。脳転移であれば頭痛や吐き気、骨転移であれば痛みなどといった症状がみられます。

症状がほとんどないため、早期の段階で肺がんを見つけるためには検診で胸部レントゲン写真やCT検査をすることが必要です。

どんな検査をするの?

1.胸部レントゲン写真

最も一般的で簡単な検査で、痛くもかゆくもありません。皆さんも健診などで一度は撮ったことがあるでしょう。まずこの検査が基本となります。異常な影が見つかれば、精密検査へと進みます。ただし、とても早い段階の病変や、心臓などと重なる位置にある病変の場合はレントゲン写真では見つけにくいことがあり、過信は禁物です。

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2.CT検査

精密検査として行われます。病変の有無だけでなく大きさ、広がり、他の臓器やリンパ節への転移についても評価することができます。CT検査で肺がんが疑われるときは、後述の検査へと進んでいきます。

3.PET検査

CT検査は白黒ですが、これをカラフルにした検査がPET検査です。悪いところ、例えばがんや強い炎症が起きている場所に色をつけることができます。頭の先から足の付け根くらいまでを一気に評価することが可能です。異常な光り方をする場所はがんが転移している可能性があるため、慎重な判断が必要となります。この検査の弱点は小さな病変だと見つけにくいことや、放射線の被曝(ひばく)の問題、脳転移については発見が難しいといったことがあります。

4.MRI検査

主に脳転移があるかどうかを調べます。

5.血液検査

腫瘍(しゅよう)マーカーといって、がんが体の中にあると数値が上がる可能性がある項目を測定します。早期では上がらないことが多く、また進行していても上がらないこともあるため、慎重な判断が必要となります。

6.喀痰(かくたん)細胞診検査

痰を顕微鏡で観察し、がん細胞が混ざっていないかを確認します。

7.気管支鏡検査

胃カメラのように口からカメラを挿入し、肺へ到達させ、病変から細胞を採取します。

8.CTガイド下針生検

CT検査を併用しながら、体の表面から針をさし、病変から細胞を採取します。

肺がんの種類と特徴

がんの形から一般的に次のように分類されます。種類によって治療方針が変わってくるので、とても重要です。

腺がん
肺がんの中で最も多く、症状が出にくい
扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん
咳や血痰などの症状が比較的出やすく、喫煙と関連が深い
小細胞がん
増殖が早い、転移しやすいなどの特徴があり、喫煙と関連が深い
大細胞がん
頻度(ひんど)は少ないが、増殖が早い

肺がんはどうやって治す?

治療法は主に3つあり、病気の広がりによって決まります。

1.手術
切り取れる範囲に病気がおさまっており、体全体をみて手術に耐えることが
できる状態であれば、手術がまず検討されます。
2.放射線療法
手術に耐えられない体力の場合などに選択されます。
3.化学療法(薬物療法・抗がん剤治療)
病気が広がっていて、手術では取りきれない場合に選択されます。
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近年、肺がんの化学療法は日進月歩で進化しています。特定の遺伝子(EGFR、ALK、ROS1など)の異常や、PDL1というタンパク質が多いといった特徴がある場合、それらをターゲットとした薬剤が開発されています。

当院でできること

当院では肺がんの診断から治療まで可能です。

特に3㎝以下の病変に対しては、胸腔鏡(きょうくうきょう)というカメラを用いた手術を積極的に行っています。胸腔鏡手術では4㎝、3㎝、1.5㎝の3つの小さな創(きず)で手術を行うため、一般的に術後の回復が早く、平均5~7日程度で退院しています。

化学療法においても、新しく承認された薬剤もすみやかに採用し、全国的な標準治療となる「肺がん診療ガイドライン」に準拠した治療を行っています。2018年にノーベル賞を受賞し話題になったニボルマブをはじめとした免疫療法も、患者さんへの適応を検討した上で積極的に行っています。

肺がんに対して診断から手術、化学療法、放射線療法まで一貫して行うことができる施設は県内でも限られています。

がん治療は早期発見・早期治療が重要です。毎年の定期検診はあなたの命を守る上でとても大切です。特にタバコを吸っている人、自分は吸っていないけれど受動喫煙の環境にいる人は積極的に検査を受けましょう。早めの受診をお勧めします。

【参考文献】Int J Cancer. 2008年122巻653-657ページ

更新:2024.01.25