腹腔鏡手術がさらに発展して外科手術の中心に 安全性と根治性をめざした、体にやさしい低侵襲手術

済生会吹田病院

消化器外科

大阪府吹田市川園町

腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)や内視鏡外科手術という言葉を一度は耳にされたことがあるかもしれませんが、一体どのようなものでしょうか?従来は、食道・胃・大腸・肝臓・胆嚢(たんのう)・膵臓(すいぞう)などの消化器の手術は、腹部に20㎝ほどの大きな切開が必要でした。また、安全性を確保する意味でも、外科手術においては大きな創(きず)(傷口)をあけてしっかり観察し、十分な視野を確保することが最も重要と考えられてきました。しかし近年、腹腔鏡というお腹(なか)の中を観察するカメラを用いることで、小さな創でも安全で細かな手術ができるようになっています。医療技術や機器の進歩に伴い、以前は胆嚢摘出術に限られていた腹腔鏡の手術が、現在では食道・胃・大腸・肝臓・膵臓・脾臓(ひぞう)といった、ほかの消化器の手術にまで応用されるようになってきました(図1)。

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図1 腹腔鏡手術 左:イメージ図 右:腹腔鏡手術の術中写真

腹腔鏡手術の長所と短所

腹腔鏡手術の長所は、①創が小さい(図2)、②術後の痛みが少ない、③術後、腸の動き始めるのが早いため、早期に食事を開始できる。また、それに伴い入院期間も短くなった、④腸の癒着による腸閉塞(ちょうへいそく)の発生率が低い、⑤カメラを臓器に近接することで、開腹手術のときに見落とされていた細かいところまで観察でき、より正確な手術が可能になった、などがあります。

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図2 胃がん患者さんの手術の創 左:開腹手術 右:腹腔鏡手術図

短所としては、①通常の開腹手術に比べて手術難易度が高い分、手術時間がやや長くなることが多い、②かなり完成された技術となってはいるものの、開腹手術と比べると執刀医の技術の差が出やすい、③緊急を要する場合や腹腔鏡での手術が困難であると判断した場合は、開腹手術に移行することがある、などです。

当院では、個々の患者さんに合わせた、根治性(こんちせい)と安全性と低侵襲性(ていしんしゅうせい)(体への負担が少ないこと)に最も優れた治療を提供するために、積極的に新しい治療法を導入しており、早くから腹腔鏡手術を胃がんや大腸がん治療に取り入れてきました。最近では、がん手術のうち、腹腔鏡手術の占める割合は胃がんで75%、大腸がんで90%です。原則として、腹腔鏡手術には内視鏡手術技術認定医か消化器外科専門医が執刀医、もしくは指導助手として手術に加わることにしており、安全性には特に注意しています。

どんな病気に腹腔鏡手術ができるの?

当院の治療方針は、基本的に各学会の治療ガイドラインに則っており、次のような病気に腹腔鏡手術を行っています。

食道がん
胸腔鏡と腹腔鏡を組み合わせて手術を行います。
胃がん
内視鏡的切除不能の早期がんと一部の進行胃がんが対象です。
大腸がん
内視鏡的切除不能の早期がんや進行大腸がんのほとんどが対象です。
胆嚢
胆石、胆嚢炎、胆嚢ポリープなど。
急性腹症
虫垂炎、胃潰瘍(いかいよう)、十二指腸潰瘍穿孔(じゅうにしちょうかいようせんこう)など。
その他
胃粘膜下腫瘍(いねんまくかしゅよう)、膵臓腫瘍、脾臓摘出術、鼠径(そけい)ヘルニアなど。

単孔式腹腔鏡手術って何だろう?あれ?傷がない!

腹腔鏡手術の小さな創は、基本的に4~5か所必要とされてきました。近年では、より低侵襲な手術をめざす「創を小さくする研究」が盛んになり、1か所の創からカメラと複数の鉗子(かんし)(臓器をつかむ道具)を入れる単孔式の腹腔鏡手術が開発されました。単孔式腹腔鏡手術における最大の利点は、整容性に優れていることです。創をおへその中に作ると、傷あとは「図3」のように、ほとんど目立たなくなります。これまで私たちは、胆嚢摘出や虫垂炎の手術などに単孔式腹腔鏡手術を行ってきました。

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図3 ア:単孔式手術(手袋法) イ:手術風景 ウ:単孔式胆嚢摘出術の手術の創

ここで最近のトピックの1つ「膿瘍形成性虫垂炎(のうようけいせいせいちゅうすいえん)」という病気について紹介します。これは炎症によって虫垂の壁が破れてしまい、周囲に膿(うみ)が溜(た)まった状態です。この場合、従来は緊急手術となり、大きな開腹手術を行っていました。虫垂を切除するだけでなく、腸管を一緒に切除しなければならないケースがあるなど、侵襲(患者さんにとっての負担)の大きな手術でした。そこで現在では、いったん抗生剤治療で炎症を沈静化させた後、時間をあけて(多くは3~4か月程度)行う「待機的虫垂切除術」という手術が実施されるようになってきました。その場合には腹腔鏡手術が適用されることが多く、患者さんにとってメリットの多い治療法といえます。

当院では「待機的虫垂切除術」のほとんどを単孔式で行っており、患者さん(特に若い女性)に大変喜ばれています。

更新:2022.03.08