慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断と治療

済生会吹田病院

呼吸器内科

大阪府吹田市川園町

慢性閉塞性肺疾患は肺の生活習慣病

慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)(Chronic Obstructive Pulmonary Disease/COPD)とは、これまで慢性気管支炎や肺気腫(はいきしゅ)と呼ばれてきた病気の総称です。その原因の大部分はたばこによるもので、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえます。長年にわたる喫煙は空気の通り道である気管支の炎症を引き起こし、それによる気管支粘膜の浮腫(ふしゅ)や分泌の増加が咳(せき)や痰(たん)、息切れの原因となります。さらに、気管支の末梢は肺胞という袋状の部屋になっていますが、喫煙による炎症から起こる肺胞壁の断裂や破壊が、酸素の取り入れや二酸化炭素の放出というガス交換を障害し、息苦しさにつながります(図1)。

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図1 COPDの気管支と肺胞の病変

厚生労働省の調査によると、2016年のCOPDによる死亡者数は1万5686人で、特に男性では死亡順位の第6位でした。喫煙率の増加や喫煙開始年齢の若年化により、今後COPDの患者数はさらに増加すると予測され、女性喫煙率の上昇による女性患者の増加も心配されています。2014年のCOPD総患者数は26万1000人でしたが、住民調査研究から推測されている40歳以上の日本人COPDの患者数は約530万人で、COPDであることに気づかずに暮らしている人が500万人以上いると考えられます(図2)。

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図2 COPDと診断されている人は氷山の一角

COPDの診断

COPDの診断には呼吸機能検査(スパイロメトリー)を行います。健康な人では最大努力で吸い込んだ空気の7割以上を1秒間に吐き出すことが可能ですが、COPDの患者さんはそれができなくなっています。COPDの進行による肺胞破壊や気道の炎症の確認、他疾患との鑑別のためには胸部レントゲン撮影を行います。高分解能の胸部CT撮影では、肺胞破壊や炎症による気道壁の肥厚の程度が早期から評価できます。低酸素血症の有無を判断するためには、パルスオキシメーターを用いた経皮酸素飽和度測定や動脈血液ガス分析を行います。

COPDの治療

症状の程度にかかわらず、すべてのCOPD患者さんに勧められる治療は、禁煙とワクチン接種です。禁煙はCOPDの発症リスクを減少させ、進行を抑制する最も効果的な方法です。インフルエンザワクチンの接種はCOPDの増悪頻度(ひんど)を減少させ、インフルエンザや肺炎による入院や死亡を減少させる効果があります。肺炎球菌ワクチンは高齢者の肺炎発症を減らし、重症のCOPD患者さんの肺炎を減少させます。

持続する症状のあるCOPDでは薬物療法を行います。治療の中心となるのは気管支拡張薬です。気管支拡張薬には吸入薬、内服薬、貼付薬がありますが、有効性が高く、全身への副作用が少ない吸入薬による治療が推奨されています。粉末もしくはスプレー式の吸入薬を決まった回数定期的に吸入することで、COPDによる症状を軽減し、疾患から受ける日常生活での制限を改善します。症状や病状によっては副腎(ふくじん)ステロイドの吸入薬や去痰薬、鎮咳薬なども治療に用います。

進行した呼吸機能障害による低酸素血症が存在する場合には在宅酸素療法を行います。酸素吸入は息苦しさの改善とともに、低酸素による心臓への負担などを軽減し、日常生活の制限を緩和します。酸素吸入は医師が適切な流量を指示して、家庭では酸素濃縮器から、外出時は携帯酸素ボンベから吸入します。これらの機器は病院から貸し出され、その費用には医療保険が適用され、外来診察時に診察費とともに支払います。

COPDによって生活活動に制限があり、病態が安定している場合は呼吸リハビリテーションも考慮されます。呼吸リハビリテーションは薬物療法と併用して行われ、日常の症状を緩和し、息切れによる身体活動性を改善することを目標にしています。

更新:2022.03.08