虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)について

済生会吹田病院

循環器内科

大阪府吹田市川園町

心臓は一生の間絶え間なく動き続ける臓器

心臓は1日に約10万回、生涯休みなく拍動するポンプで、心筋と呼ばれる筋肉からできています。心筋が規則正しく動き続けるためには、十分な酸素が必要であり、その酸素を心筋に送るための血管が冠動脈(かんどうみゃく)です。

虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)とは冠動脈が何らかの原因で狭くなり、血流が悪くなって心筋に十分な酸素が供給できなくなり、胸痛を引き起こす病気のことをいいます。冠動脈が狭窄(きょうさく)する原因は、主に血管の内壁に沈着したコレステロールや血栓により血管の内腔(ないくう)が狭くなる動脈硬化ですが、何らかの原因によって冠動脈が痙攣(けいれん)(攣縮(れんしゅく))して細くなる場合もあります。

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図1 冠動脈の狭窄病変(矢印)と狭窄した血管内腔

冠動脈がさらに狭くなって、血管が完全に詰まって心筋に酸素が行き届かず、細胞の一部が壊死(えし)してしまうと心筋梗塞(しんきんこうそく)になります。いったん壊死した心筋は二度と再生することはなく、その部分は全く機能しなくなるため、早い段階で冠動脈を再開通させなければ生命の危険にかかわります。

虚血性心疾患は大きく分けて4種類

①労作性狭心症

階段を上がったり、力仕事をしたりするときには、心臓から体内に血液をたくさん送り出す必要があり、心筋の働きも増加します。このときに冠動脈に狭窄があると、心筋への十分な血液の供給ができなくなります(心筋虚血状態)。こうして起こるのが労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)です。

狭心症の典型的な胸痛は「胸が締めつけられる」「胸が圧迫される」などと表現されますが、その苦しさには個人差があります。一般的に安静にしていると2~3分で治まりますが、長くても15分程度で症状は消失します。このとき、ニトログリセリンを舌下で溶かすと胸痛はなくなります。ニトログリセリンには冠動脈を広げて心臓の負荷を減らし、心筋虚血を改善する作用がありますが、血圧も下げるので、倒れても差し支えないように、座った状態で口に含みます。なお、胸痛は胸部だけでなく、心窩部(しんかぶ)(みぞおち)、左肩、首、のど、あご、背中、わきの下など、さまざまな所で感じることがあり、同時に冷や汗、めまい、動悸(どうき)あるいは呼吸困難を伴うこともありますので、注意してください。

②冠攣縮性狭心症

「夜、就眠中、ことに明け方、胸が苦しく押さえつけられたようになる」という発作があります。これを安静時狭心症といいます。安静にしていて起こるためにこういうのですが、痛みの性質や部位などは労作性狭心症の場合と同じです。

多くの場合、冠動脈が一過性に痙攣を起こして収縮し、血流を一時的に途絶えさせるために起こる狭心症で、攣縮性狭心症ともいいます。冠動脈の攣縮もまた、動脈硬化の進行過程にみられる現象といわれています。

この場合もニトロ製剤がよく効きますが、ほかにカルシウム拮抗薬もよく効きます。特に喫煙者では冠動脈の痙攣が起きやすくなるので、速やかな禁煙が必要です。

③不安定狭心症

「狭心症発作が次第に頻回(ひんかい)に起こるようになり、労作時ばかりでなく、安静にしていても起こる」というようなときには、不安定狭心症といいます。

心筋梗塞の前触れです。発作が繰り返し起こっている間に、大きな発作に至らない前に心筋梗塞が出来上がってしまうこともあります。できる限り速やかに病院を受診してください。

④急性心筋梗塞

「突然に胸が焼けるように重苦しく、押しつぶされるような、締めつけられるようになって冷や汗が出る、吐き気を伴う胸痛が長く続き、30分以上、時には数時間も続く」というのは心筋梗塞の症状です。痛みは多くの場合、狭心症のときよりも激烈です。

ニトログリセリンを含ませてもよいのですが、狭心症のときほど、有効ではありません。このような症状が出現したら安静にし、救急車を呼んで病院を受診してください。

また、無痛性心筋梗塞といって、痛みの発作がなく、いつの間にか心筋梗塞になっている場合もあります。高齢者や糖尿病の患者さんに多く、心不全状態となってはじめて気づかれています。

治療の主役は心臓カテーテルインターベンション

内科的治療法には、冠動脈内で詰まった血栓を血栓溶解薬の注射で溶かす治療法や、風船(バルーン)が先についた細い管(カテーテル)を血管内に入れて、詰まった部分を風船で広げたり、その後、再び閉塞(へいそく)するのを防ぐためにステントと呼ばれる筒状の金網を血管内に留置するインターベンション治療があります。

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図2 ステント留置後の冠動脈造影(矢印)と良好に拡張されたステント

最近は、ステントにも改良が加えられ、ステントに薬を塗って血管の再狭窄を防ぐDES(薬剤溶出性ステント)と呼ばれるものが一般的に用いられています。

当院では24時間体制で専門スタッフを配置し、いつでも心臓カテーテル治療を行える環境を備えています。

ステントを留置した後には、抗血小板薬という血液をさらさらにする薬を2種類服用する必要があります。治療直後に服用を中止すると、ステント内に血栓が生じて心筋梗塞を起こすおそれがありますので、安易な中止をしないよう、特に注意してください。

外科的治療としては、別の血管を使って詰まった血管部位を回避する道を作る冠動脈バイパス術があります。冠動脈バイパス術は、狭心症に対する薬物療法が無効で、カテーテルによる治療も困難または不可能な場合に行います。冠動脈の狭い部分には手をつけず、体のほかの部分の血管を使って狭窄部分の前と後ろをつなぐ別の通路(バイパス)を作成して、狭窄部を通らずに心筋に血液が流れる道を作ります。

虚血性心疾患の予防のために

狭心症や心筋梗塞の治療は、動脈硬化を完治させるわけではありません。病気にならないためには、動脈硬化の進行を予防することが大切です。それには危険因子と呼ばれる因子の除去に努めることが重要です。

禁煙、塩分・糖分・脂肪分の取り過ぎに注意し、バランスの良い食事をして、高血圧症・糖尿病・高脂血症を予防すること、適度な運動、気分転換を図り、ストレスを避け、規則正しい生活を送ること、血縁の方に心筋梗塞や狭心症の方がいれば、特に長年の悪い習慣を改める必要があります。

また、心筋梗塞は過度の疲労や緊張、暴飲暴食、天候の急変などをきっかけに生じることが多いので、それらを避けることが大切です。虚血性心疾患の素地は長い時間をかけて形成されていきます。このような病気を起こさないために、何にも増して若い頃からの心掛けが大事といえるでしょう。

更新:2022.03.28