泌尿器がんー尿路上皮がん(腎盂、尿管、膀胱)の診断と治療

済生会吹田病院

泌尿器科

大阪府吹田市川園町

尿路上皮がんとは

尿路とは、腎臓でできた尿が通過していく部分で、「腎盂(じんう)」「尿管」「膀胱」となります。この部分に発生するがんの総称が「尿路上皮(にょうろじょうひ)がん」であり、発生部位によって「腎盂がん」「尿管がん」「膀胱がん」と呼ばれます。この中で最も頻度(ひんど)が高いのが「膀胱がん」です。

膀胱がんの特徴

60歳を超えると罹患数が増加し、男性は女性の4倍程度といわれています。喫煙との因果関係が明らかであり危険因子です。また、染料などに含まれるある種の化学物質が発がんに関与しているといわれています。

痛みや発熱などを伴わない無症候性の肉眼的血尿が一般的な症状です。発生部位によっては水腎症(すいじんしょう)や背部痛をきたす場合もあります

膀胱がんの診断

膀胱がんが疑われた場合、まずは尿細胞診と膀胱内視鏡検査を行います。腫瘍(しゅよう)がある場合は、CTや超音波検査などで転移の有無や腎盂、尿管の病変の有無などを調べます。

膀胱がんの治療(図)

図
図 膀胱がんと腎盂尿管がんの関係

1.経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBt)

まず初めに経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBt)という手術をすべての患者さんに行います。

TURBtによって、膀胱筋層への浸潤(しんじゅん)の有無、悪性度などを診断し、その後の追加治療の検討を行います。筋層への浸潤のないがん(筋層非浸潤性膀胱がん)の場合は、主に経過観察となります。

2.膀胱内注入療法

膀胱がんは、膀胱内に再発を繰り返すことが多く、再発予防目的で、抗がん剤やBCG(結核菌のワクチン)を膀胱内に注入する治療を行うこともあります。

3.膀胱全摘除術

TURBtによって、筋層への浸潤(筋層浸潤性膀胱がん)があると判断された場合や、非常に高悪性度のがんと診断された場合は、膀胱全摘除術の適応となります。これまでは開腹手術が行われてきましたが、最近では腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)やロボット支援手術も行われるようになり、保険診療で施行可能となりました。当院でもロボット支援手術を開始予定です。

膀胱全摘術を行った場合、尿路変向といって新たに尿の排出経路を作る必要があります。尿管皮膚ろう(尿管を直接側腹部に出す方法)、回腸導管造設術(小腸の一部を遊離して尿管をつなぎ、人工肛門のように腸管を腹壁に出す方法)、新膀胱造設術(遊離した小腸で尿を溜(た)めるための袋を作り、尿道と吻合(ふんごう)することで、自力排尿を行う)が主な方法となります。患者さんの病態や体力、生活スタイルなどを考慮して尿路変向の方法を決定します。

4.化学療法(抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害薬)

筋層浸潤性膀胱がんや転移のある進行性膀胱がんでは、根治性(こんちせい)を高める目的や、転移のコントロールのために抗がん剤による化学療法を施行します。一般的にはゲムシタビンとシスプラチンを用いたGC療法が行われます。効果がない場合は、MVAC療法(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン)や、2018年4月からは免疫チェックポイント阻害薬であるペンブロリズマブが使用可能となりました。

腎盂尿管がんの特徴

50歳以上で罹患数が増加し、男性は女性の2倍程度といわれています。近年増加傾向で、膀胱がん同様喫煙との関連が示唆されています。肉眼的血尿や水腎症などが主な症状ですが、膀胱に比べて症状が出にくく、筋層も薄いため、発見された時点で進行していることが多くなります。

腎盂尿管と膀胱の上皮(粘膜)は移行上皮という組織で、腎盂尿管がんの治療後30~50%で膀胱がんを、膀胱がんの方は5%程度で腎盂尿管がんを発症するといわれています。

腎盂尿管がんの診断

超音波検査やCT、尿細胞診などで腎盂尿管がんが疑われた場合、尿管鏡検査、生検、組織診断を行います。

腎盂尿管がんの治療

1.腎尿管全摘除術

転移がなく局所に限局している場合は、根治療法として腎尿管全摘除術(患側の腎臓、尿管、膀胱の一部を切除)を実施します。現在は腹腔鏡下に行うことが可能で、当科では同時に腹腔鏡下にリンパ節郭清術も施行しています。

2.化学療法

基本的には膀胱がんと同様の治療(GC療法やMVAC療法)を行いますが、手術後の方は腎臓が1つになってしまうため、腎臓への負担の少ないカルボプラチンを用いた治療を実施する場合もあります。また膀胱がん同様、免疫チェックポイント阻害薬であるペンブロリズマブが使用可能です。

最後に

泌尿器科がんの概説と当院泌尿器科における取り組みを紹介しました。標準的なことは確実に行い、少しでも低侵襲に患者さんの負担を減らしつつ、根治性も維持できるような先進的な治療にも積極的に取り組んでおります。記憶の片隅に留めておいていただけると幸いです。

更新:2024.01.25