初期から侮れない糖尿病

済生会吹田病院

糖尿病内科

大阪府吹田市川園町

「糖尿病予備群」と言われたら

糖尿病は、世界中で患者数が増加し、WHOがエイズに続き世界で2番目に戦略が必要と決議した病気です。日本でも厚生労働省の推計では、糖尿病が強く疑われる人は950万人、病気の可能性を否定できない「糖尿病予備群」が1100万人で、これらを合わせると国民の約6人に1人が何らかの血糖異常の可能性があります。

さて、糖尿病予備群と言われて皆さんどう思われるでしょうか?
①これは大変だ。早速気をつけよう
②まだ大丈夫なのかな

①と思い実行できる方は、糖尿病に進展するリスクは恐らく少ないでしょう。しかし、人間どうしても甘く思いたいものです。どちらかと言えば、②と思う方のほうが多いのではないでしょうか。私たちの外来にも、初めて糖尿病を指摘された患者さんがたくさん来院されますが、過去に「予備群」とか「境界型」と言われている方が割とおられ、ほとんどの方は対策が取れていません。

では、「予備群」ならまだ心配はいらないのでしょうか?残念ながらそうはいきません。まず糖尿病へ進展するリスクは当然上がります。また、予備群の中でも食後血糖が一過性に上がりすぎる食後過血糖の方は、すでにこの段階から狭心症(きょうしんしょう)・心筋梗塞(しんきんこうそく)といった心血管疾患のリスクが高まっていることが国内外の研究で明らかにされています。血糖値は少々高くても全く症状がないため、なかなか自覚が持てませんが、事態は知らないところで進んでいるのです。「正常」とは言えないからこそ「予備群」などの名が付けられているのであり、「予備群」と言われた方は、糖尿病に準じた食事・運動療法の開始を考慮する必要があることを知っておいてください。

糖尿病治療の進歩とさまざまな問題

1957年に最初の経口糖尿病治療薬(SU剤)が発売されて以降、ビグアナイド、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン、グリニドといった種々の薬剤が発売され、そして近年ではDPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬という新規薬剤の登場で、糖尿病患者の血糖コントロール状態は改善の一途を辿っています。

一方、1922年に初めて1型糖尿病患者にインスリン製剤が投与されて以降、製剤技術と注射器の進歩とともに種々のインスリン製剤が生み出されました。特に2001年以降のインスリンアナログ製剤という種類のインスリンが登場したことで、より生理的なインスリン分泌パターンに近づけることが可能になり、またインスリン持続注入器(CSII/continuous subcutaneous insulin infusion)の進歩により、1型糖尿病患者でもきめ細やかな血糖管理が可能になりつつあります。JDDM研究(糖尿病データマネジメント研究)でも日本人の平均HbA1cは概ね低下していますが、持続血糖測定システム(CGMS/continuous glucose monitoring system)が使用可能となったことで、同じHbA1cでも血糖変動は大きく異なることが分かるようになり、いかに変動の少ない”質のいい”HbA1cをめざすかが重視されるようになってきました。薬剤の選択肢が増えたからこそ”質”に踏み込むことも可能になりましたが、特に高齢者においては併存疾患の増加とともに、現在問題となっているpolypharmacy(多剤服用)の一因ともなりかねない状況となっています。

2016年に日本糖尿病学会より「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」が発表され、年齢だけでなく使用薬剤(低血糖のリスクの有無)と身体状況を勘案して目標設定をするよう求められています。増え続ける高齢者の服薬管理は困難なことも多いのですが、複数の薬剤を混合した合剤や、最近市場に出回りだした週1回投与タイプの薬剤はpolypharmacy対策の一助となり得るものと思われます。しかし、どんな薬剤を使用していようと、やはり食事・運動療法が血糖コントロールの基本であり、HbA1cが変化した場合にその原因を掘り下げ、改善の場合にはそれを継続し、悪化の場合には原因に対するアプローチを考えていく姿勢が重要です。

更新:2022.03.28