大腿骨近位部骨折を予防して健康寿命を延ばそう

済生会吹田病院

整形外科

大阪府吹田市川園町

寝たきりの原因としての大腿骨近位部骨折

日本は2007年に超高齢社会(65歳以上の人口が全人口の21%を超えた社会)に突入し、その後10年でますます高齢人口は増加し続け、内閣府の「平成29年度版高齢社会白書」によると、2035年には3人に1人が65歳以上の高齢者になると予測されています。

ご存じのように、日本人の平均寿命は世界トップクラスですが、健康に問題なく日常生活が送れる健康寿命との間には、男性で約9年、女性では約12年の差があり(図)、この期間は寝たきりや介護が必要になることから、深刻な社会問題となっています。

グラフ
図 長寿社会の実現と「健康寿命」とのギャップ(出典:厚生労働省「平成25年簡易生命表」「平成25年人口動態統計」「平成25年国民生活基礎調査」、総務省「平成25年推計人口」をもとに作図)

健康寿命を短くしている要因の1つに、骨折・転倒による寝たきりがあり、健康寿命を延ばすためには、長期にわたる骨折予防が重要となります。特に問題なのが、寝たきりになりやすい大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)で、その患者数は欧米などの諸外国が減少に転じる中、日本では年々増加傾向にあり、高齢化率の上昇に比例し女性では急増しています。

骨折を起こすと患者さんの生活の質(QOL)が著しく低下します。特に、大腿骨近位部骨折は骨折後1年でも骨折前のQOLには戻りません。また、骨折が生命予後を悪化させることも疫学研究で明らかになっており、75歳以上では特に大腿骨近位部骨折が著明に生存率を低下させます。このように、大腿骨近位部骨折はQOLを長い間低下させ、要介護や寝たきりにつながるだけでなく、生命予後をも悪化させるため、骨折を起こさないことが非常に重要です。

骨折の原因は、約80%が転倒と軽微な外力で発生していることから、骨折および再骨折の予防には、継続した骨粗(こつそ)しょう症(しょう)治療が、ぜひとも必要だと考えます。

再骨折予防のための骨粗しょう症治療

大腿骨近位部骨折後の再骨折(二次骨折)予防の取り組みは、全国の医療機関で行われていますが、まだ、その端を発したところです。大腿骨近位部骨折の手術後に、適切な骨粗しょう症治療が行われている割合は低く、骨折後の服薬継続はわずか18%であったと報告されており、まだまだ再骨折予防ができていないのが現状です。今後、わが国の大腿骨近位部骨折を減少させ、健康寿命を延伸させるには、骨粗しょう症治療をいかに継続させるか、具体的には、やはり患者さんの骨粗しょう症治療薬の服薬継続率をいかに上げていくかにかかっていると考えます。

治療を開始したあとも、服薬が継続できるように、地域で患者さんを見守っていくことが大切です。そのためには、日本骨粗鬆症学会が推進している「骨粗鬆症リエゾンマネージャー制度」が発展し、地域医療の中で確立していくことが重要と考え、数年前から当院の院長黒川が吹田市で骨粗しょう症対策の推進役を果たしています。

更新:2024.10.29