潰瘍性大腸炎、クローン病の治療最前線
済生会吹田病院
消化器内科
大阪府吹田市川園町
はじめに
潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とクローン病に代表される炎症性腸疾患は、免疫異常により腸管粘膜に炎症や潰瘍が生じる原因不明の慢性疾患です。
潰瘍性大腸炎は大腸のみに、クローン病は口から肛門までのすべての消化管に病変が生じます。いずれも難病疾患で根本的な治療薬はありませんが、2002年にクローン病に対するTNFα阻害薬インフリキシマブが承認されて以降、次々と治療薬が開発・承認され、炎症性腸疾患に対する治療の選択肢は飛躍的に広がり、治療効果も大変良くなりました。
これらの疾患の診断・治療は専門性が高く、当院ではたくさんの患者さんを治療しています。このような病気が疑われたら、ぜひ病院を受診することをお勧めします。
潰瘍性大腸炎の症状と検査方法
発症は若年者から高齢者まで幅広くみられ、発症のピークは10歳代後半から20歳代後半にあります。症状は持続性または反復性の粘血・血便・下痢・腹痛です。
検査方法は大腸内視鏡検査が最も重要です。ただし、感染性腸炎でも似た症状が出る場合がありますので便培養検査も行います。多くの患者さんは、薬物治療により症状の改善や消失が認められますが、再発することも多く、また発病後7~8年を過ぎると大腸がんのリスクが高くなるため定期的な内視鏡検査が必要です。
選択肢が増えた潰瘍性大腸炎の治療(表)
寛解導入 | 寛解維持 | |
---|---|---|
5-ASA | 〇 | 〇 |
ステロイド | ◎ | × |
血球成分除去療法 | 〇 | ー |
免疫調節剤(アザチオプリン) | △ | 〇 |
免疫調節剤(タクロリムス) | ◎ | △ |
生物学的製剤 | ◎ | 〇 |
完治できる治療薬はありませんが、腸の炎症を抑え症状をコントロールすることで治療します。基本となる薬剤は抗炎症作用を持つ5-ASA(5-アミノサリチル酸)です。5-ASA製剤は、サラゾスルファピリジンとメサラジンがあり、最大使用容量はそれぞれ異なりますが、薬剤の特徴をうまく使うことにより、軽症から中等症の多くの患者さんは症状が消失します。
直腸からS状結腸の局所に炎症の強い場合は、経口5-ASA製剤だけでなく、局所製剤である坐剤(ざざい)、注腸剤を単剤あるいは経口薬との併用で治療を行います。
5-ASA局所製剤の効果がない場合、ステロイド局所製剤を使用します。全身への影響の少ないブテソニド注腸フォーム剤も使用できるようになり、治療の選択肢が増えました。
副作用の少ない血球成分除去療法
顆粒球・単球を吸着する顆粒球除去療法(GMA)と顆粒球・単球・リンパ球を除去する白血球除去療法(LCAP)があります。ステロイド治療の効果が不十分な場合やステロイドの使いにくい場合に行われます。特徴としては、副作用がほとんどなく、ほかの治療法と併用が可能です。
中等症から重症、難治例の薬物治療
5-ASA製剤で効果がない場合や不十分な場合、経口ステロイド剤、免疫調節剤のアザチオプリン、血球成分除去療法を併用します。中等症から重症、難治例で入院が必要な場合、ステロイド剤の点滴治療を行います。
ステロイドが効きにくい場合、TNFα阻害薬や免疫調節剤のタクロリムスを用いて治療を行います。患者さんの多くは、薬物療法で症状が改善、消失し寛解状態となりますが、再び悪化すること(再燃)がしばしばあるため、継続治療が非常に大切です。寛解維持療法は、5-ASA製剤、アザチオプリン、TNFα阻害薬を単剤あるいは組み合わせて行います(表)。
クローン病の症状と検査方法
発症は、10歳代後半から20歳代の若い人に多くみられます。クローン病の症状は下痢や腹痛の消化管症状と発熱、体重減少などの全身症状です。診断は、大腸、小腸、胃の内視鏡検査、組織検査、造影検査などで行います。
クローン病の治療
クローン病の治療は、生物学的製剤のTNFα阻害薬の登場により生活の質が劇的に改善し、寛解導入に成功すると長期にわたり寛解を維持することが可能となりました。また、新しい生物学的製剤としてヒト型抗ヒトIL-12/23P40モノクローナル抗体製剤や、副作用の少ない経口ステロイド剤ブテソニドが使用できるようになり治療の選択肢がさらに増えました。
そのほか内科的治療は、潰瘍性大腸炎でも使用する5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節剤のアザチオプリン、血球成分除去療法、栄養療法があります。
クローン病は、狭窄(きょうさく)、膿瘍(のうよう)、瘻孔(ろうこう)などにより外科手術が必要になることも多く、TNFα阻害薬を中心に寛解を維持することが重要です。
更新:2024.10.08