ホルモンの異常による病気ー内分泌疾患

済生会吹田病院

内分泌内科

大阪府吹田市川園町

ホルモンってなに?

人の体は約60兆個の細胞でできています。それらの細胞の集まりが協調してひとりの人間として機能するためには、お互いにきめ細かい情報交換を行う必要があります。その細胞間の情報のやりとりを担っているのが「神経」と「ホルモン」です。

神経には、すばやく情報を伝えるという長所がありますが、1つの神経からは一定の限られた範囲にしか情報を伝えられません。一方で、ホルモンには神経のような、すばやい情報伝達力はありませんが、全身のさまざまな臓器の多くの細胞に対して一括して情報を伝えることができるという特徴があります。

人の体で働いているホルモンは100種類以上といわれていますが、実際はもっと多いと考えられています。ホルモンを作って放出(分泌)している臓器を総じて内分泌腺といいます。一般によく知られている甲状腺や下垂体(かすいたい)、副腎(ふくじん)のほかにも、最近では心臓や胃腸などの消化管、脂肪までもがホルモンを分泌していることが確認されています。これらの数多くのホルモンは、それぞれに決められた役割を果たす中で、互いに協力あるいは拮抗し合いながら複雑に制御され、その結果ひとりの人間としての生命を維持することができるのです。

ホルモンの異常による病気

通常、血液中のホルモン濃度は適切に調節されていますが、内分泌腺の機能に異常が生じると、ホルモンのバランスが崩れて体調に変化をきたすことがあります。このような状態(病気)をまとめて内分泌疾患といいますが、その多くはホルモンの過剰や不足が原因です。多くのホルモンは体全体に拡散して機能するため、たった1つのホルモンの不調でも全身にさまざまな症状が出る可能性があります。

例えば、甲状腺ホルモンは代謝を活発にし、エネルギー産生に関与するホルモンなのですが、これが増加するバセドウ病では動悸(どうき)がしたり、汗をかきやすくなったり、体重が減ったりします。逆に減少する甲状腺機能低下症では元気がなくなったり、心臓が弱ったり、体重が増えたりなど、さまざまな症状が出現する可能性があります(図)。また、内分泌疾患は高血圧の原因となることも多く(表)、それに気づいていない高血圧症の患者さんも多いと考えられています。

イラスト
図 甲状腺機能低下症の症状
先端巨大症
バセドウ病
副甲状腺機能亢進症
腎血管性高血圧症
原発性アルドステロン症
クッシング症候群
褐色細胞腫
表 血圧上昇の原因となる内分泌疾患

ホルモンの働きは多種多様であり、その過不足による症状もホルモンの種類によってさまざまです。その多様さは、時として内分泌疾患の診断を困難にする原因となります。甲状腺疾患のように日常的に経験する病気や、典型的な症状が確認できれば診断はそれほど難しくはありませんが、まれな病気や症状が非典型的な場合は、診断に至らず見過ごされることも少なくありません。

内分泌疾患の治療

症状がさまざまで時として発見が困難な内分泌疾患ですが、いったん診断がついてしまえば治療に困ることは多くはありません。ホルモンが足りなければ補い、多ければ分泌を減らすなどの適切な処置ができれば、正常な、あるいはそれに近い状態まで体調を回復することができます。

重要なのは、まず体調の変化に気がつくこと、次に内分泌疾患が疑われたら専門外来を受診すること、診断が確定したら適切な治療を受ける(受け続ける)ことです。もちろん体調の変化がすべて内分泌疾患によって起こるわけではありませんが、気になる症状があって時間が経っても改善しない、いろいろ調べてもはっきりとした診断に至らないという場合は、内分泌疾患の可能性を検討してみることが問題解決のきっかけになるかもしれません。

更新:2022.03.16