ハイブリッド手術室で複雑なカテーテル治療をより安全に

大垣市民病院

循環器内科

岐阜県大垣市南頬町

岐阜県初のハイブリッド手術室導入

2014年7月17日、当院は岐阜県で初めて、手術室にハイブリッド手術室を導入しました。ハイブリッド手術室とは、手術台と心・脳血管X線撮影装置を組み合わせた治療室のことで、手術室同等の空気清浄度の環境下で、手術室と心臓カテーテル室、それぞれ別の場所に設置されていた機器を組み合わせることにより、高度な医療技術に対応します。当院のハイブリッド手術室の特徴は、十分な広さが確保されていることから、さまざまな医療支援機器の同時使用、さらに手術支援ロボットの導入も可能であることです。

また、カテーテル検査室ではなく手術室へのハイブリッド手術室導入により、麻酔科、心臓血管外科、循環器内科医師、および医療スタッフとの迅速かつ緻密な連携が可能になり、最新の医療技術への対応ができるようになりました。豊富なマンパワー、知識、技術に裏付けられた、安全で、質の高い医療を提供しています。

当院のハイブリッド手術室では、大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)に対しステントグラフト(胸部大動脈瘤に対しTEVAR、腹部動脈瘤に対しEVAR)、大動脈弁狭窄症(きょうさくしょう)に対し経カテーテル大動脈弁置換術(ちかんじゅつ)(TAVI)などの先進的な手術を実施しています。最近は上記治療に加え、心臓血管外科と協力し、ペースメーカーリード抜去、皮下植込み型除細動器(S-ICD)、感染リスクの高い患者さんへのペースメーカー交換やペースメーカー植え込み、急性下肢動脈閉塞(きゅうせいかしどうみゃくへいそく)に対する外科治療およびカテーテル治療を実施し、また呼吸器内科と麻酔科と協力して、肺がんにおける気管支ステント治療も行っています。

ハイブリッドシステム

東芝メディカルシステムズ社(現キャノンメディカルシステムズ株式会社)製の最新鋭X線循環器診断システム「Infinix Celeve™-i INFX-8000H」および、ドイツのMAQUET社製専用手術台「MAGNUS手術台埋込型1180」を設置し、56インチ大型モニターを採用しています。手術中でも非常に高精細なX線画像をリアルタイムに表示し、従来よりも高精細な画像を利用できます。

ハイブリッド手術室で行う治療と実績

当院では、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト留置術(EVAR)および胸部大動脈瘤に対するステントグラフト留置術(TEVAR)、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)、ペースメーカー植え込み(PM)、心臓再同期療法(CRT/CRTD)、経静脈植込み型除細動器(TV-ICD)、皮下植え込み型除細動器(S-ICD)、ペースメーカーリード抜去術、急性下肢動脈閉塞に対する外科治療およびカテーテル治療を行っています。治療実績を「表」にまとめました。

治療法 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
TEVAR/EVAR 49 25 44 67 52
TAVI 2 33 47 48
PM 91 88 96 109 126
CRT/CRTD 11 12 25 30 23
TV-ICD 26 17 18 16 18
SICD 2 6 5
リード抜去 0 2 4
表 当院のハイブリッド手術室で行う治療実績

●TEVAR、EVAR

心臓血管外科と協力のもと、EVARおよびTEVARについても積極的に治療を行っています。症例数は東海3県において上位3施設に入り続けており、安定した治療成績を治めています。2018年からは、全国的にも数少ない施設でしか行われていない穿刺法(せんしほう)のみでの治療を開始し、術後の早期離床が可能になりました。低侵襲(ていしんしゅう)化を行うことで、ハイリスクな高齢者であっても安全に治療を行うことができています。

●急性下肢動脈閉塞に対する外科治療およびカテーテル治療

血栓による急性下肢動脈閉塞では、外科的に血管を露出し、特殊なカテーテルを用いて血栓を回収します。血栓回収のみでは対応できないときもあり、バルーン治療やステント留置が必要になることがあります。ハイブリッド手術室で治療を行うことにより、心臓血管外科および循環器内科による治療が可能になりました。急性下肢動脈閉塞に対応するためには、豊富なマンパワー、知識、技術が必要になります。当院では、複数名の医師が365日緊急対応できる体制をとっています。

●S-ICD

これまで広く使用されてきた経静脈植込み型除細動器(TV-ICD)は、経静脈的にリードが植込まれていたため、ICDリード挿入にともなう合併症、経年的に出現するリード損傷、デバイスに関与する菌血症など、さまざまな問題が提起されていました。それらを解決するべく開発されたのがS-ICDであり、当院においてもガイドラインに従い、感染リスクが高い患者さん、長期間使用が予想される若年の患者さんに対して、植え込みを行っています。

感染リスクを減らし、患者さんの苦痛を減らすため全身麻酔下で、形成外科、心臓血管外科、麻酔科と共同で治療を実施しています。

●ペースメーカー、ICD植え込みおよび交換

感染リスクが高い患者さんに対するペースメーカー植え込み術およびペースメーカー交換を、手術室同等の空気清浄度の環境下で行っています。

●ペースメーカーリード抜去

リード抜去術は、植込み型心臓電気ペースメーカー術後の感染に対する重要な治療法として位置付けられています。スネア、シース、レーザーなどの機器を使用して抜去する経皮的リード抜去術、開胸術や開心術による外科的リード抜去術があります。

しかし、外科的リード抜去術は周術期リスクが高く、経皮的リード抜去術が一般的になりつつあります。欧米では1990年代から、エキシマレーザーを用いた経皮的リード抜去術用機器が使用されていましたが、日本でも2010年以降保険適用され、エキシマレーザーを用いた治療が可能となりました。

2012年に経皮的リード抜去術手技料の診療報酬が新設され、当院においてもリード抜去術を2017年より開始し、岐阜県で唯一のリード抜去可能な施設として治療を行っています。

●TAVI

TAVIは、大動脈弁狭窄症に対しSAPIEN 3、Evolut™PROといった人工弁を用いて、カテーテルで治療を行う方法です(写真、図1)。アプローチ方法は鼠径(そけい)、心尖部(しんせんぶ)、上行大動脈(じょうこうだいどうみゃく)、鎖骨下に分かれていますが、現在はほとんどの患者さんで鼠径アプローチを選択しています(図2)。

写真
写真 SAPIEN 3とEvolut™ PRO
図
図1 重症大動脈弁狭窄症に対し、SAPIEN 3を用いてTAVIを行った症例(提供:エドワーズライフサイエンス株式会社)
イラスト
図2 SAPIEN 3を用いた場合の、TAVI治療のアプローチ部位(提供:エドワーズライフサイエンス株式会社)

当院では2015年12月より治療が始まり、2019年12月末までに177例の治療を行い、全例で成功しています。治療開始から治療件数は順調に伸びており、2016年から2018年にかけて、東海3県においては毎年治療件数の多い上位3施設に含まれています。詳細は別項(「大動脈弁狭窄症」)にまとめましたので、ご参照ください。

更新:2024.10.10