骨盤骨折治療には各専門科の協力が必要 高エネルギー外傷に起因する骨盤骨折治療

大垣市民病院

整形外科

岐阜県大垣市南頬町

はじめに

骨折の原因にはさまざまなものがあります。転倒によるもの、事故や転落、墜落などによるもの、がんの転移や骨粗(こつそ)しょう症(しょう)によるものがあります。その中で、事故や落、墜落など、力の大きな外力が体に加わることで生じる外傷を高エネルギー外傷と呼びます(表)。

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表 高エネルギー事故の例

高エネルギー外傷とその他の外傷との大きな違いは、体幹部(背骨や骨盤など体の中心に近いところ)の骨折が多いこと、いろいろな部分に同時に骨折が起こること、脳や内臓、血管損傷を合併していることなどがあります。このような高エネルギー外傷に伴う骨盤骨折治療についてお話しします。

高エネルギー外傷受傷から手術までの流れ

高エネルギー外傷では、体の多部位の骨折が起きます。それだけでなく、脳損傷や内臓損傷を合併することがあります。損傷部位が増えれば増えるほど、出血が多くなるため、血圧が低くなります。このような場合、整形外科のみでは治療することができません。

まず救急医が血圧の管理や出血のコントロールを行い、全身の損傷部位を特定します。その後、損傷部位に応じて各専門科が治療を行います。昔は、骨折治療は後回しになっていました。命に大きく関わることはないからです。しかし、それにより命は助かっても寝たきりになったり、関節の動きが悪くなり、元どおりの生活に戻れないことが多くありました(機能予後の不良)。

そこで、近年、救急医が全身管理をしつつ、各専門科が適切な時期に適切な治療を行うことで機能予後を改善し、受傷前の生活に可能な限り戻れるような治療を実施するようになりました。

当院では、高エネルギー外傷を受傷した患者さんはまず救急外来に来院し、そこで救急医が全身を診察、検査を行います。

骨盤骨折を受傷していると、骨折しているところからの出血や内臓損傷よる出血で血圧が低くなっていることがあります。救急医が輸血を行いますが、輸血のみでは血圧が上がらないことがあります。そういった場合、骨盤骨折部周囲の血管に細い管(カテーテル)を挿入し、造影剤で出血しているところを確認し、出血部位をコイルを用いて詰めて出血を止める方法や、お腹(なか)を開け、直接出血している部位をガーゼで押さえて出血を減らす方法があります。

このような方法を用いながら、患者さんの全身状態の改善を図り、骨盤骨折の手術ができる状態にしていきますが、骨折治療にはタイムリミット(約2週間。骨折したところが時間が経つとくっついてしまい、手術しても戻せなくなるため)があるため、各専門医が協力して可能な限り早く全身状態の改善を行います。

骨盤骨折の手術について

当院では、骨盤骨折は基本的に手術加療を行っています。ベッド上で安静にしなければいけない期間を少しでも短くするためです。ベッド上での安静が続くことで、肺炎、下肢静脈血栓(かしじょうみゃくけっせん)による肺塞栓症(はいそくせんしょう)、筋肉の萎縮(いしゅく)や関節の拘縮(こうしゅく)が起きるため、それを予防します。

骨盤骨折の手術は、整形外科の手術の中でも特に危険度の高い手術です。傷が大きく長時間かかるため、感染が起きる危険性、骨折部や血管から大量に出血する危険性、内臓を傷つける危険性があります。

こんな危険な手術をなぜしなければならないのでしょうか。それは、手術を行わなければ、けがをする前の状態に戻ることがほぼ不可能となるからです。私たちは日々、患者さんが元どおりの状態に戻り、仕事や日常生活に困らないようにするために、手術を行っています(写真1~4)。

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写真1 手術前/墜落外傷にて受傷した骨盤骨折と右大腿骨骨折。ほかに脳挫傷、顔面外傷、上腕骨骨折、踵骨骨折を合併
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写真2 手術後/救命医を中心に各専門医にて全身管理を行い、受傷後10日で手術を行いました
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写真3 手術前/交通事故で受傷した骨盤骨折。右寛骨臼と左仙腸関節に損傷を認めます
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写真4 手術後/骨盤以外の合併損傷はなく、受傷後4日で手術を行うことができました

更新:2024.10.10