肺がんは「手術できない」と言われたら治らないのでしょうか?
滋賀県立総合病院
呼吸器内科 放射線治療科 呼吸器外科
滋賀県守山市守山
肺がんには種類があるの?
肺がんは、顕微鏡で見た組織のタイプ(組織型)により小細胞肺(しょうさいぼうはい)がんと非小細胞肺がんに大別され、非小細胞肺がんはさらに腺(せん)がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、大細胞(だいさいぼう)がんに分けられます。非小細胞肺がんの患者さんは小細胞肺がんよりずっと多く、腺がんが最も多いです。一口に肺がんといっても組織型により治療方針が異なりますので、がんの組織を採取する検査(生検)が重要です。
どんな検査が必要なの?
診断のためには、超音波を活用して肺腫瘤(はいしゅりゅう)や胸部リンパ節を生検する気管支鏡検査、CTを使って正確に場所を確認しながら皮膚表面から針を刺すCTガイド下生検、全身麻酔での外科的生検などを病状により選びます。
がんの進行の程度(病期、ステージ:早期のⅠ期から進行期のⅣ期まで)を調べるためには、CTに加えて、弱い放射能をつけたブドウ糖に似た物質を静脈注射してどの部位にがんがあるのかを調べるFDG-PET(エフディージーペット)検査、それでは見つけにくい脳転移を調べるための頭部MRI検査を行います。
どんな場合は手術できないの?
手術できない理由は2つあります。
1つ目は病期が進んでいる場合です。がんが周囲の臓器に広がっていたり(浸潤(しんじゅん))、肺がんのそばの胸部リンパ節より遠いリンパ節に転移していたり、ほかの臓器に転移していたり(遠隔転移、Ⅳ期)した場合、がんを全部取り切れず完治をめざせないため、基本的に手術の適応になりません。特に小細胞肺がんの場合は転移のスピードが速く、手術の適応が限られます。
2つ目は高齢、肺の機能低下、ほかの病気のために体力的に手術に耐えられない場合です。
手術以外の治療で治るの?
手術ができないからといって、必ずしも治らないわけではありません。手術を行わない理由によって異なりますが、手術以外にも放射線治療を用いた完治(かんち)をめざす治療法があり、肺がんの種類や患者さんの状態によって方針を検討します。
間質性肺炎(かんしつせいはいえん)がある場合など、肺の状態によっては放射線治療ができないことがあります。体力や副作用の点を含めて医療者とよく相談し、治療選択を行っていきましょう。
① 非小細胞肺がんで進行していても遠隔転移がない場合(Ⅲ期)
抗がん剤と放射線治療を同時に行う化学放射線療法が標準治療(科学的なデータにより現時点で勧められる適切な治療)です。抗がん剤治療を行いながら放射線治療(通常1日1回週5日を6週間で計30回)を行います。放射線治療終了後、効果や副作用の状態により、抗がん剤治療や免疫療法が追加されます(図1)。
② 非小細胞肺がんでリンパ節転移や遠隔転移がなく、比較的早期(Ⅰ~Ⅱ期)でも体力的に手術できない場合
根治的放射線治療が勧められます。特に腫瘍(しゅよう)が小さな場合は、多数の方向から集中して狙い撃ちするピンポイント照射と呼ばれる定位(ていい)放射線治療を行うことがあり、正常肺への影響が少なく良好な治療成績が得られています(図2)。
③ 小細胞肺がんで手術できない場合
小細胞肺がんは非常に転移しやすいため手術できることがほとんどなく、基本的に抗がん剤治療を行います。がんが片側の胸部までとリンパ節転移が鎖骨上(さこつじょう)(首の付け根)までにとどまっている場合(限局型)は、抗がん剤治療と同時に放射線治療(通常1日2回週5日を3週間で計30回)を行います。治療がよく効き腫瘍(しゅよう)がほぼ消失した場合は、脳転移を予防するための脳への放射線治療(予防的全脳照射)を行うことがあります。
遠隔転移がある場合(Ⅳ期)は根治的な放射線治療を行えず、残念ながら完治は難しくなります。ただ、薬物療法の進歩により長期に元気にされている方が多くなりつつあります。
また、肺病変や脳・骨の転移に伴うつらい症状を和らげたり、進行を遅らせたりするための放射線治療を行うことがあります。痛みなどの症状については、早い時期から緩和ケアを受けることも、生活の質を保つために大切です。
肺の表面や胸の内側を覆う膜(胸膜)への転移(がん性胸膜炎)により、胸水が溜(た)まって息苦しくなることがあります。その場合は、ドレーン(管)で胸水を出して、胸水が溜まらなくなるように薬を注入する胸膜癒着術を行うことがあります。
肺がんは受診時に、すでに進行していて手術できないことも多いですが、完治をめざす化学放射線療法を行える場合があり、生活の質を長く保つための薬物療法もあります。一例として、化学放射線療法後に免疫チェックポイント阻害薬を用いる治療法が最近認められました。
更新:2024.10.04