原発不明がん外来 早い診断、早い治療開始を目指して
四国がんセンター
乳腺外科 原発不明がん診療科 化学療法科
愛媛県松山市南梅本町甲
原発不明がんの持つ問題点と当科での取り組み
がんの治療は、がんができる部位とがんの性状、進み具合にあわせて行われます。しかし、最初の診断の時点では、がんが発見されたにもかかわらず、さまざまな症状から、がんの見つかった部位がもともと発生したところではなく、不明な部位からの転移であると思われる場合がかなりの割合であります。がんがもともと発生した部位を原発部位と呼びますが、それが不明であるがんを「原発不明がん」と呼びます。その場合、詳しい検査により、できるだけ早く原発臓器が推定されなければなりません。どうしても原発臓器が分からない場合でも早めに最適な治療を開始します。
しかし、原発臓器が分からないまま各診療科別に順番に診療すると、治療開始までに時間を要します。また、原発不明がんは原発臓器が分からないだけで、腫瘍そのものの特性についての知識を持つ専門家の協力があれば治療可能であるとされています。さらに、原発臓器が不明であり、治療方針が決まらないという状態は、患者さんにとって進行したがんがあるという宣告以上に、治療が遅れるという不安が大きいと思われます。
そこで2016年5月、当院はいち早く「原発不明がん診療科」を立ち上げ、原発が不明な患者さんへ、各科が横断的な対応を素早く行えるよう組織を整備しました(図1)。
当科が中心となり、患者さんの状態や必要な検査結果を把握した上で、診療科合同の「原発不明がんカンファレンス」(写真)を行い、治療方針の決定を行っています。
原発不明がん診断のポイント
治療方針を決めるために、画像診断(CT、PET‐CT、MRIなど)と組織検査、腫瘍マーカー検査を、各科が協力して短時間に行います(図2)。治療法を早く決定するためと、患者さんと家族が診断に時間を取られている間に不安になるのを避けるためです。
画像検査は病変の広がりや時間的な推移を検討できるので、原発臓器の推定にかなり有効です。特にPET‐CTは極めて有用で、当初、原発不明と思われた広義の原発不明がんの大半において、原発臓器の推定が可能になります。
病理検査も大変重要で、胸腹水に出現した腫瘍細胞も検査します。臓器に特有な蛋白質(たんぱくしつ)の発現やウイルス感染、遺伝子異常なども調べたりします。それにより、原発臓器の推定をしたり、抗がん剤治療が効く組織タイプかどうかを確認します。
多くの手技を用いて診断を行うので、どうしても診断に時間がかかる場合もありますが、当初原発不明がんとされた患者さんの約7割は、原発臓器を確定診断した上で、早めに治療を開始することができます。「詳しい検索にもかかわらず原発部位が明らかにならない腫瘍」、つまり、真の原発不明がんは全悪性腫瘍のうち3〜5%とされています。
原発不明がんを早く治療するために
原発臓器が特定できた場合は、ただちにその専門科で、がん治療ガイドラインに沿った抗がん剤治療を行います。ただし、検索開始から1か月経過しても原発臓器が完全に不明な場合には、「原発不明がん診療ガイドライン」に従って、プラチナ製剤とタキサン製剤を併用した抗がん剤治療を開始することもあります。また、合同の院内カンファレンス(原発不明がんカンファレンスやキャンサーボード)で、原発不明がんのケースは必ず検討され、早く治療を始める努力をしています。
原発不明がん診療科の開設以来、年間30以上の原発不明がん症例を診察してきました。適切な抗がん剤治療で、治療効果が得られた患者さんは約7割になります。診断や治療を早く行うことで、原発不明がんのコントロールは可能となる場合が多いのです。
がん専門病院として、専門性の高い各科のスタッフが力を合わせ、原発不明がんの速やかな診断、最適な治療実現のため努力してまいります。
更新:2024.10.24